
金沢駅の駅弁の中で、頭一つ飛び抜けて高額なものが「越前朝倉物語」弁当だ。そもそも金沢は加賀国なので、なぜ隣国、隣の県の駅弁が売られているのか微妙な感じもする。東京駅で横浜名物のシウマイ弁当が売られているようなものか。その違和感はあるが、見るからにうまそうな弁当で、これは挑戦しなくてはならない、マストバイだと意気込んで購入した。
しかし、食べてみると越前朝倉氏と弁当の中身は、あまり関係がないような気もする。だが、福井県が誇る歴史的遺物としては、滅亡した朝倉氏根拠の一乗谷と現存する永平寺が二大巨頭だろう。福井県が誇る永遠の2トップだから、朝倉氏の投入は仕方がない。そもそも現存する永平寺は「刊行物名称」として使いにくい。「永平寺〇〇弁当」などとネーミングして駅弁を作れば、お寺の法務部?からクレームがつけられ知財訴訟に巻き込まれそうだ。少なくとも、お偉いお坊さんからやんわり説教されるのは間違いない。

弁当のふた?を開けると下から出てくるのが、九つに分かれた「ちまちま系」の松花堂弁当的な品々だった。その一つ一つにメニューの解説付きという、いたせりつくせりの心配りがある。これは、全国でもあちこちに見られる、少わけにした幕内、松花堂弁当系を販売する駅弁屋は、みんな見習ってほしい。素晴らしいアイデアだ。
青森の駅弁にもこれと似た、少区分の説明書きがついたちまちま弁当があった。ただ、青森版はメニュー名が印刷された別添のものだったので、わかりやすさから言えば福井版の方が上手にできていると思う。

お品書きを取り払うと下から出てくる、小料理の数々。ああ、これは絶対うまいやつだと見ただけで思う。ビジュアル的にも優れている。駅弁は見た目が茶色っぽくなりがちだ。煮物と揚げ物では色が出しにくいこともある。生物が使えないせいもあるだろう。だから、にんじんや卵焼きが色付け要員として多用されるのだが、この朝倉氏弁当は、色使いにも果敢に挑戦している。お値段以上の価値がある。(笑)
個々の料理の完成度も高いが、全体で構成した時の味の満足、量の満足、など駅弁界の至宝のようなものだ。肉だけ乗せた、蟹だけ乗せた、豪速球一本勝負的な駅弁が主流になりつつある駅弁業界で、製造効率も悪い幕の内弁当系で勝負しようという、越前福井県の意気込みには惚れ込んでしまう。
ただ、一乗谷に行っても、朝倉氏ゆかりの名物食べ物があるとは気が付かなかった。福井名物といえば、カニとサバ(へしこ)と油揚げくらいしか思い出せないのだが(勉強不足だな)、それが弁当の主力になっている感じもしない。
とても美味いが、浅倉氏との連携が今ひとつピンと来ない。まあ、それでもこの弁当の旨さに変わりはないのだが。ということで、この駅弁はマイベスト駅弁でトップ5認定とした。ちなみにトップ5は秋田県大館のとりめし、山形県米沢の牛肉ど真ん中、横浜の崎陽軒シウマイ弁当、長野県横川の釜飯。惜しくも次点が、青森の「ひとくちだらけ」になる。

ちなみに、以前購入した加賀「百万石弁当」も、九つに分かれたちまちま系駅弁だったが、どうもこちらが先行していたのではないかと思われるのだ。加賀百万石に対抗するべく、後発の朝倉氏弁当が開発され、おまけに値付けも百円高く設定するというにくい戦略をとったと推測できる。現代の越前国対加賀国、駅弁戦争勃発というストーリーが思い浮かんでしまった。

観光大国である加賀国が、越前国が仕掛けた駅弁戦争、そしてこの先の全面的観光侵略にどう対応するのかについての考察は、また別稿で考えてみることにしよう。北陸観光戦線勃発だな。