各駅停車の旅は、出発が朝早くになる。先々の接続を考えると、選択肢がほとんどない。始発駅を早朝に出発する便は、乗り継ぎ駅まで直行する数少ない便になる。そのため、朝の早い時間ですら街歩きをする時間がない。
たまたま弘前は、朝イチではなく午前中の出発列車を狙っていたので、少し時間に余裕があった。これまで弘前で街歩きをしたのは冬の時期だけだったので、ぶらぶら街を歩くのが楽しみだった。

街を歩くとあちこちで面白い看板にであう。とんかつ助六は住宅地の真ん中にあった。こんな場所でとんかつ屋かと思わせる。ただ、興味が湧いたのは「とんかつ」ではない。

この幻のカツ丼だった。特製カツ丼に問題があるわけではない。気になるのは美空ひばり推奨のひとことだ。この方は、あの有名な昭和の歌姫のことだろう。その方が推奨するということは、一体どんなストーリーがあるのだろう。
これを知るにはランチタイムに来て、おそらく店内に書いてあるに違いない美空ひばりストーリーを読んで確かめるしかない。もしそんなものがなければ、店員さんに尋ねることだ。などと朝からちょっと興奮してしまったが、どう考えてもランチタイムに弘前にはいない。次回にするか、と断念したのだが。日程をかえても食べるべきだったなと、今更ながらに反省している。次行く時までお店があいていますように。

この一言にもガツンとやられた感がある。強気の発言というか、相当に自分のうちのコーヒーに自信があるのだね。すごいぞ。飲んでみたいぞ。

と思ったら、お店は喫茶店ではなくピザ屋だった。なんとも不思議な、朝だけカフェらしい。これも残念ながら時間がないので次回回しだ。

そのあと、弘前のある私鉄の駅まで足を伸ばした。駅名がカッコ良いので、ずっと気になっていた。駅前ロータリーに着いて、駅舎はどこだと思わず探してしまったが、目の前に立っている平屋が駅だった。全然、駅には見えなかったのは何故だろう。「中央」と着いているから大型の駅舎があると思い込んでいたからだろうか。

駅の中は、昔の駅にありがちな広告が無造作に氾濫した整理整頓とは程遠い光景で、これはこれでなつかしさがある。いまのJRなどの洗練された駅舎や駅構内と比べると、明らかに昭和のカオスが感じられる。JRも末端駅に近づくと、こうしたカオス状態が楽しめるのだが。ローカル私鉄は、あえてその雰囲気を放置しているような気もする。

そのカオスに一層拍車をかけるのがピアノだった。駅にピアノというのは、なんとはなしにそこはかとした哀愁を感じる。駅ナカ・コンサートがあったりするのだろうか。小学生の発表会に使われたりするのだろうか。いきなりアメリカから来たジャズプレイヤーが即興で引いていたりしそうだ。などと、脳内妄想が展開する。いい光景だな。

この駅のホームだが、線路よりは切符を買った乗客が列車を待つ場所で、左側の壁際は公共の通り抜け通路になっていた。ホームの中を通り抜けるとは、これは初めてみた。すごいな、弘南鉄道。
そして、その通路を通り抜けると美術館に出る。

弘前の現代美術館はレンガ倉庫を改造したものだった。これも朝早すぎて開館時間に間に合わない。えーい、こいつも次回回しだ。ということで、朝の散歩で気になるものをたくさん見つけてしまい、今度は弘前に2・3日滞在して、積み残したあれこれをやっつけなくてはなあ。雪が降るとホワイトアウトするから、その前にするか、それとも来年の桜の咲く頃にしようか、ちょっとまよっている。