
恐山に路線バスで行くのは、各駅停車で鉄道旅行をしているのだから当たり前だと思っていた。ただ、バスの便数が恐ろしく少ない。朝一番の便で恐山に行くと、帰りのバスが三時間後までない。バス会社の考えでは、恐山の滞在時間は普通に三時間くらいかかるものだということだろう。あの荒涼とした地で三時間もいるのかよ、とつっこみたくもなるが、実は案外その予想時間は正しい。

お寺の門をくぐると広々とした敷地の中に木造の建物がある。これがお風呂で、参詣した人は入ることができる。まわりの硫黄臭が強いので、間違い無く強酸性の硫黄泉だろう。入ればお肌すべすべは間違いないが、体に染み付いた硫黄臭がなかなか取れない。以前、福島の山間で硫黄泉温泉を体験している。硫黄泉に入った後は、すれ違うだけで匂いがわかるほどだ。帰りのバスの車内が心配になるので、温泉は諦めた。自分が運転する車で来れば、問題なく良いお湯が楽しめる。
また、自分は諦めた湖畔までの遠征をすれば往復一時間程度はかかりそうだ。きっちりと恐山の全てを散策し、湯を楽しめ三時間はすぐなのだろう。

その恐山堪能ツアーをショートカットしてしまったので時間を持て余してしまった。仕方がないから、入り口の隣にある食堂で軽くビールでも飲みながら食事にしよう、などと不埒なことを考えたのだが。やはりここは霊場だった。確か仏教だから精進ものしか出てくるはずがない。間違ってもトンカツなどメニューにあるはずがないし、酒などももってのほかだろう。
店内で出されるものは、蕎麦とうどんとカレーライスだった。おとなしく山菜蕎麦を注文した。5分で食べ終わってしまい、三時間の待ち時間を潰すのは無理だとわかった。やはり事前にもう少しお勉強してこなければいけないと反省する。

御朱印をいただいたので、それを見返していたらやはり霊場恐山と書かれている。これは、大事なものだな。

山から降りて下北駅まで戻る。この駅も駅前には店が少ない。駅前食堂みたいな定番旅のお供も見当たらない。ようこそ、ジオパークと言われても、鉄道旅ではハンディがある。基本的にジオパークとは海とか山にある「岩を中心とした風景」を楽しめる場所だ。穴であれば洞穴潜りとか、海岸線であれば船に乗って沖合から眺めるとか、アクションが伴う観光だ。徒歩とバスでは行けるところも少ないし、行けるところでも一度バスから降りると、次に来るバスが三時間後みたいな羽目になる。

案内板を見ると、レンタルの自転車で回れる距離でもなさそうだ。端っこ好きとしては大間崎がちょっと魅力的だった。ただ、このバス60分の距離は、おそらく日帰りできない。朝イチのバスで行ったら滞在時間10分で最終バスになりそうだ。これもよくよくバス時刻と運行パターンを調べておかないと、手を出してはいけない冒険旅行になってしまう。

首都圏という大都市圏での鉄道運行状況を前提に各駅停車の旅をすると、ほぼ致命的な被害を被る。それは間違いない。日本各地のローカル鉄道では、一度降りると次に列車が来るのは二時間後というのがほぼほぼ常識だ。また、鉄道路線図ではつながっていても、実際に頻繁に(一時間に一本程度)運行しているのは、その両端駅周辺のみ、みたいなケースが大半だ。
大きい荷物を抱えて観光地に行くのはしんどい。できれば駅でコインロッカーに荷物を預けたい。そう思っても、やはりコインロッカーの有無や場所は、ネットで探しておいた方が良いのも「各駅停車旅のあるある」だ。この下北では駅を出てすぐに観光案内所があるが、その脇に無料のコインロッカーがある。これを知らなければ、大きなリュックを背負って恐山に行くところだった。
最近の旅は自動車で好きな時間に好きな場所に移動できるから、こうした旅のノウハウもすっかり不要になったはずだが、鉄旅ではまだまだ昭和の知恵が生きているようだ。次回の下北ツアーは自動車でキャンプ旅行かな。