
各駅停車の旅、第一の目的地が「恐山」だった。まだ学生だった頃から、一度は行ってみたいと思っていた場所だったが、ずっと行けないまま月日が流れ去ってしまった。このままでは行かないうちに死んでしまいそうなので、無理矢理にというか、強引に恐山ツアーを目論んだ。
恐山を訪れる旅行者の大半はレンタカーで移動するそうだ。ジジババばかりが行く場所かと思っていたら、最近は若い人が多く訪れるそうで、パワースポットとしての評価が高いということだろう。こちらは各駅停車の旅なので、当然ながら最寄駅から路線バスが選択肢になる。

下北駅に着いたのは朝の9時ごろ。それに合わせて恐山行きのバスが出る。駅からは10人くらいが乗り込んで出発。年齢はバラバラだが、女性の方が多い。大学生らしき男性4人組がちょっと異色な感じがする。残りはジジイが3人、若い女性が7−8人という感じだった。市街を抜け山道に入ると、バスの中では恐山の解説(録音したもの)が始まった。路線バスとは言え親切なものだ。

相当にくねくねした山道を登ること30分ほどでたどり着いたところは山上湖だった。湖のほとりには駐車場が広がっていた。バスで来たのは10人ちょっとだが、駐車場には30台以上の乗用車が停まっている。ナンバープレートを確かめてはみなかったが、車から降りてくる人を見ていると男一人が多かった。女性はグループかカップルで来るような感じがする。一人恐山は、迷えるジジイかオヤジが多いようだ。

下界は30度近い暑い日だったが、山上は心なしか涼しいような気がした。標高を考えると5度くらい気温が低いのかもしれない。山の上では曇りと晴れが忙しく繰り返していた。

バス停の前には休憩所があった。バス待ちの参詣者が多い時は活躍しそうだが、この日は誰も中に入っていなかった。

仮眠くらいできそうな畳敷きの休憩所は、確かに恐山という場所にはふさわしいような気がする。消毒用アルコールが置いてあるのが、いかにも今時の光景だった。

入山する前に拝観料を収める。大人500円というリーズナブルなお値段だった。冬の間は道路が閉まるので、こちらもお休みになるそうだ。高い山の上にある神社も冬は神様が山の下に降りてくるようだし、雪の間は平地に移してもと思ったが………やはり、それは無理だろうなあ。

山門前には恐山の謂れなどの説明もある。ただただ、霊場として恐れ入るばかりだ。そもそも、入り口に霊場と書かれてある場所に来たのは初めてのような気がする。

この門をくぐれば霊場なのかと気持ちを引き締めた。この門をくぐるもの、全ての望みを捨てよ、という何かで見聞きしたセリフが蘇ってきた。まるで地獄に行くような、恐ろしい場所ではないはずだ。
周りの人もおしゃべりしながら気軽に入っていくではないか。ただ日ごろの心がけが悪いものは、お山から帰るときに色々と面倒な方達を連れて帰ることになる、とも聞いているので、ここは慎重に気持ちを正しく持って入ることにしよう。
【続く】