
弘前で晩飯がてら居酒屋に行きたいのだが、とホテルの方におすすめの店を聞いた。そうしたら、全国チェーンだが地元料理を食べさせるので面白いと言われたのがこの店だった。看板だけ見ると、あのチェーン店なのかと言いたくなる。たまたま店名が同じだけではないのか?
どうやら、そう思わせる改装をしたようだ。個人経営の居酒屋に見せかける「ワタミ忍法」らしい。全国チェーンがブランドロゴを捨ててしまうというのは、すごい時代だと改めて思い知らされる。それでも焼肉屋になるよりは、生存確率が高いという経営判断なのだろう。

店の入り口も、随分と賑やかだ。どうみても全国チェーン店には見えない。手作り感を全面に押し出している。コレはこれで、店長が大変だろうに。

店内で席に着くと接客係のお兄ちゃんが登場し、まずは型通りのご挨拶。おすすめは刺身の階段盛りだと言われた。一人で来ている客に刺し盛りをすすめるのか、とちょっと気になるが、言われるままにそれを注文してみた。シャムロックも気になるのだが、量的に一人では両方は頼めないような気がする。

ドーンと出てきた「階段盛り」は、ビジュアル的にインパクト十分だ。刺身のクオリティーも全国チェーンのものとは思えない。やればできるじゃないか、と思わせる。なぜコレを全国でやらないのだろうか。個店の学びを全国に広げられるのが全国チェーンの強みではないか?
東京発の強いコンセプトを金太郎飴的に全国に広げる手法・チェーン理論は、既に崩壊したと言って良い。おそらく東京発の情報が伝播する速度が早まりすぎて、出店速度がそれに追いつかないからだ。
そもそも東京で流行も終わりにかかり陳腐化しているが、地方では伝達速度が遅れているので繁盛しているという形こそが、全国チェーンの強みのはずだった。地方の店が元気なうちに、東京の足元を立て直すべく、次のコンセプトを生み出せば、情報伝達のタイムラグを活かしてブランドと企業の安定を保てる。
ところが、今ではその情報速度が速くなりすぎ、東京のコンセプト衰退、陳腐化したという情報の方が出店より先になる。地方出店が、今までとは逆にお荷物になりやすい。
だとすると、地方を含めた個店の戦闘力を色々な実験で上げてみて、それを一気に全国化する戦略転換が必要な時期のはずだ。が、なぜか居酒屋をコンセプトごと放棄して焼肉や唐揚げに走る。それではブランド再生などできないだろうに。
刺し盛りを楽しみながら、そんな衰亡業界の失策を考えていた。東京での業態転換した店を見てモヤモヤとした疑問に思っていたことだった。それを弘前に来て解凍を見つけるとは………
確かに、首都圏にいては気がつかないことだろう。旅は時に学びをもたらすのだなあ。

小難しいことを考えているうちに、本日の大本命である「イガメンチ」が登場した。弘前に来る楽しみの一つがコレだ。ネットで見るレシピーで自作してみようかと思うのだが、なかなかやる気にならない。津軽では家庭料理らしいので、自作してみても失敗することもなさそうだが………
こちらのイガメンチ(イカではなく、イガ)は小ぶりの一口サイズだった。味付けはいつも食べているものよりも濃い味で、酒の肴向きということらしい。生姜醤油で食べよと言われ素直に試してみたら、まさに大正解だった。イガメンチ、うまし。
これは全国に広まってほしい。イカの名産地は日本全国あちこちにたくさんあるが、イカ料理サミットでも開催して、各地の名物イカ料理を普及してほしい。鳴子のイカメンチとか函館のイガメンチとか、鳥取のイカメンチとか、シュリの違うイカの料理が食べてみたい。


日本酒も青森推しだった。特に地元の豊盃をふんだんに置いてあるのが素晴らしい。蔵元がある弘前でも豊盃は手に入れるのがなかなか難しい名酒だ。個人的には、青森の豊盃、岩手のあさ開き、福井の黒龍が絶賛したい日本酒だが、どの酒も地元に行ってすら手に入りにくい。
ネットで転売される酒を買うのも腹立たしいので、ネットで酒には手を出さない。現地で2000円で買える酒を5000円で売るようなネット酒屋には全く興味がない。
だから豊盃を手に入れるには弘前に行った時に百貨店の酒売り場に行くか(一部青森市の酒屋でも入手可能)、東京飯田橋にある青森県アンテナショップに行った時くらいしかない。それが、この店では飲み比べができるという。素晴らしい。本当に全国チェーンの店なのか?

実は、地元の人気居酒屋にも行ってみたのだが、予約なしでは満員で入れなかった。次回は、こちらの店に行き(予約して)、炙ったイカで熱燗をちびり、みたいな飲み方をしたいものだ。居酒屋で仕事の話を考えると、ちょっと疲れてしまうしなあ。