旅をする

各停の旅 青い森鉄道 野辺地から

野辺地の駅前に出て辺りを眺めてみた。ごく普通に地方都市の駅前だ。ビジネスホテルというより旅館が似合いそうな風景だった。振り返って駅舎を眺めていると気がついた。駅名看板が、青い森鉄道だった。JRの二文字が入っていない。ちょっと不思議な感じがする。共用駅のはずだが………

駅のホームで見ると「青い森鉄道」の看板は青い線で、JRは緑の線で路線名が書かれている。微妙なこだわりというか違いだが、改札口は一緒なのだ。このあたりの曖昧さがなにやら嬉しい。「昔は同じ家族だったのにね、今では違ううちの子になっちゃったんだよ、兄さん」みたいな感じだ。

ホームから外を眺めると、これまたちょっと嬉しい看板があった。「俺たち、頑張ってきたよな、弟よ」「そうだね、兄さん」と兄弟が呟く日本最古の誇りだ。野辺地は風の強いところだと聞いたことがある。だから、防風林はよく耳にするが、防雪林とは初めてみた。おまけに鉄道の二文字が追加された防雪林だ。なんとなく冬の厳しさが想像できる。
昔のことのだが、その寒風の中で育つコカブがうまいんだと、農協にすすめられた。当時、担当していたレストランで野辺地コカブのサラダを出していた。東京のスーパーではあまり見かけない野辺地のコカブは、週に何回か直接取り寄せていた。野辺地コカブは生食が一番うまい。防雪林で思い出した。

駅舎の中で待合室に立ち喰い蕎麦屋があった。着いた時にはすでに営業終了していた。あと30分早ければなあと、実に残念な気分だった。どうも、この旅では立ち食い蕎麦屋にふられっぱなしだ。
お品書きを見ていると、三食そばという見慣れないメニューがある。これは天ぷらそばよりお値段が高い。たぬきときつねの合体みたいなもののようだ。ちょっと魅力的だが、狸と狐だから化かされそうな気もする。
そして一番下にある超合体メニュー「北前駅そば」がすごい。価格が立ち食いそばの限界を超えているような強力さで、朝からこれを食べる野辺地市民は東北の強者というしかない。

青い森鉄道のキャラがドーンと描かれた車両が、全国私鉄の中で最高峰のデザインだと(ごくごく個人的に)思っている。東京圏にある私鉄の野暮ったさとは雲泥の差だ。流行りキャラとのタイアップでラッピングするのも悪くはないが、やはり自前のキャラ電を走らせるのが良いのになと思う。西武鉄道の旧型(黄色い車両)は、全部キャラ電にしても良い。(個人的な思いこみです)

世界遺産になった縄文遺跡群をモチーフにとした「車両「現代壁画」はすでにアートだ。ただし、あれこれ突っ込みたいところもある。メガネをかけたおっさんは遮光土偶がモチーフなんだろうか。たくさんいる白兎はどういう意味があるのだろうか。などなど脳内に刺激を与えてくれる。

車体に書かれたロゴもなかなか美しい。細部までデザインの手抜きをしないのは、とても素晴らしい。美の神は細部に宿るのだ。

青い森鉄道終着駅が青森駅だ。ホームの駅名表示にまた出現する緑のJRライン。この駅は駅自体を共用化しているので、ホームを変えるだけでJRに乗り換えができる。奥羽本線で新青森まで行けば、そこから新幹線に乗り換えができる。

その奥羽本線に乗り換え、旅は南下を始める。青森駅が今回の旅の折り返し点だ。青森では乗り換えに40分ほど空き時間ができた。駅ビルの中をぶらぶらしてみる。お目当ての駅弁は、やはり売っていない。新幹線の乗り換え通路で青森の駅弁のほとんどを販売していた記憶がある。
やはり駅弁を食べるほどの長距離移動は新幹線になるので、各駅停車の旅では駅弁調達が難しい。結局、青森駅では立ち食い蕎麦屋も見つけられなかった。駅舎改良工事前には立ち食い蕎麦屋があったのだが、消滅してしまったのだろうか。

青森から弘前までは1時間もかからない。弘前は通勤通学圏と言えなくもない。ただ夕方の時間帯だったが、高校生の姿は目立たない。青森、弘前は文化的に独立圏ということだろうか。元・城下町と新興・港町の違いがあるようだ。これは地元の人に聞いてみないとわからない。ただ、弘前の博物館で聞いた話だが、青森と弘前では発音の違い、「ねぶた」と「ねぷた」の違いがある。港町の発音の方が強い音だ、ということだった。津軽の文化は深い。

弘前の駅に着くと、ホームから階段で改札口に上がる。その階段にある歓迎の看板だ。弘前の誇るお城、桜、りんご、岩木山がデザイン化されている。弘前はお気に入りの街の一つで、ぶらりと散歩をしたくなる。ただし、冬には散歩をすると遭難しそうになる。津軽は市街地でもホワイトアウトする場所だ。雪の日の視界は100mを切る。

北東北各県には難読地名が多い。すらっと読めない駅名の方が多いような気がする。弘前の一つ先の駅も、一眼で読める人がいたら、その方は青森県人だろう。なでるウシの子とはなんだろう、その姿あるいは光景を脳内で想像してみた。再現不可能な気がする。北海道に多数あるアイヌ語起源の地名と同じで、発音に対しての当て字なのだろうか。混迷は深まるばかりだ。津軽の謎だなあ。

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