八戸で夜の名所といえば、観光案内にも乗る「みろく横丁」ということになるだろう。屋台村の元祖的存在だ。帯広の屋台村は、北海道内では有名だと思うが、この八戸みろく横丁はもう少し広域で知られているような気がする。
東京恵比寿の屋台村や松本にあるつなぐ横丁が、インドアの代表屋台村だとすると、こちらはアウトドア系の筆頭だろう。八戸は青森県内でみると雪の少ない地域だということなので、冬の時期でも営業できるようだ。
同じ青森県でも弘前の屋台村はインドアだし、北海道では札幌を含め降雪地域でアウトドア系屋台村は見当たらない。(ススキノの飲み屋ビルは立体的な屋台村だとも言えるか)

みろく横丁の中は比較的広い通路が通っている。お店は大小の差があるが、基本的にカウンターだけで十人も入れば満員になる規模だった。小体な店で店主との距離が近いのが屋台の特徴だろう。店主との会話が魅力という店も多いはずだ。

夏の終わりでどの屋台も扉は全開放だったが、不思議と虫が飛んでいない。蚊取り線香の匂いもしない。何か屋外営業の秘密があるのだろうか? 衛生管理は長年のノウハウがあるのかもしれない。
満席に近い店もあれば、店主が新聞を読んでいる店もあった。コレも屋台村ではお決まりの光景だ。

やはり雪が降ると滑りそうな道路だなと、北国育ちとしては気になるポイントがちょっと違う。冬になり除雪をしても薄く氷は張っているだろうし、飲んだ後に扉を開けて無造作に踏み出した一歩は、「危険が危ない」レベルだと心配になる。それともロードヒーティングが入っているのだろうか。

みろく横丁入り口にある世界遺産認定のお話が、ちょっと微妙な気がする。北東北で世界遺産統一キャンペーンでもやらないと、地場の遺跡だけ宣伝してもわかりにくい。観光客にとって知名度が上がらないという危惧がある。
それとも、どこかに北海道と北東北3県の統合オフィスでもあるのだろうか。Jリーグ発足後から、日本もイベントマーケティングが上手くなったと思っていたが、地方自治体の壁が立ちはだかっているのだろうか。旅から戻ったら調べてみるかな、などとちょっとだけ真面目なことを考えた。

地元料理の店先で便利なものを発見した。八戸名物の一覧表になっている。この中から何を食べようかとあれこれ考えていた。一番気になったのは「どん肝刺」で、メニューの並び具合からすると魚介類らしい。「どん」という魚が八戸にいるのだろうか。
二つ目に気になったのが「塩辛やきめし」で、コレは料理が想像できる。多分、理解も間違っていないと思う。ただ、実食してみないと、想像が正しいかどうかはわからない。謎メニューは大好物だ。

とあれこれ店先で考えた後、実はそことは違う店に入った。店の入り口周りを見て直感で勝負というやつだ。この店頭観察で当たりの店を引く確率はおおよそ6割くらいだろうか。逆にいうと5回に2回は失敗したと思うことになる。
どちらかというと負けと感じる時は、ダメージ回復のため二軒目に挑戦する。しかし、深刻なダメージを負った時は、スゴスゴとホテルに引き上げる。旅先で夜のギャンブルはあまりお勧めできないし、2連続KOを喰らうと、その街のことが嫌いになってしまう。だから、名誉ある撤退にする。
かと言って、ネットで調べた高得点店舗が良い店かというと、意外とハズレが多いのが実感だ。居酒屋と町中華は自分の間を信じる方が勝率は高いと思っている。

店に入りメニューをあれこれ物色する前に熱燗を頼む。このときに出てくるお燗の温度とお通しが最初の認定課題だ。最近のお燗酒は機械式が主流のせいもあり温度設定が高すぎる。お茶より熱い酒を出してはいけないと思うのだが。そしてお通しが冷たいもやしのおひたしみたいなガッカリ系手抜き料理が出てくると、それだけで店を出たくなる。
こちらのお店では、お燗がちょっと熱めだったが、お通しはイカとさつま揚げの煮物。ああ、コレは美味いぞ。思わずおかわりを頼みそうになった。イカの味がよく出た濃いめの味付けは、熱燗の肴にぴったりだ。どこからか演歌が聞こえてきそうな組み合わせだ

自家製しめ鯖とイカの刺身を頼んだ。刺し盛りもうまそうだったがひとりで食べるには量が多いようで、好きなものを好きなだけ原則を貫くことにした。正解だったと思う。ちょっとだけ期待していた「どん刺し」は見当たらなかった。いや、そもそも「どん」が魚の名前ではないのかもしれない。
焼き鳥屋で鶏のくびを「せせり」と呼ぶように、何か当たり前の魚のどこかの特定部分なのかもしれない。謎は謎のまま置いておく方が、次に来る時の楽しみになる……と思うことにした。まあ、痩せ我慢というか意地を張っているだけのような気もするが。