
帯広に行ったら(あるいは十勝のどこかに行ったら)寄りたい店がある。カレーのインデアンは絶対定番だが、もう一軒は「鳥せい」だ。初めて行ったのは鹿追町の支店だった。農協の方と実に楽しい酒を飲んで、その時、鳥のうまさに感動した。「鳥せいうまい」という、いわゆる刷り込みが起きた。以来、鳥せい=Must Go マスト・ゴーという連鎖記憶になっている。
その後、富良野の支店にも行った。同じように満足した記憶が残っている。ただし、どの店に行っても鳥を食べた記憶と旨かったという記憶が残っているだけで、何を食べたのかは覚えていない。これはほとんど鳥せいマジックとでもいうしかない。



今回はしっかり何を食べたか記憶に残そうと事前にサイトでメニュー確認をした。そうしたら、なんだかメニューの数が思っていたより少ないシンプルさだった。あれれ、という感じがした。やたらバラエティーがあると思い込んでいたようだ。

とりあえずビールではなく、熱燗を頼んだ。冷たいビールをぐびぐび飲むのも良いのだが、注文した鳥が仕上がるまでには時間がかかる。ビールを頼むと、鳥が来るまでに腹が膨れてしまいそうだ。

鳥半身の直火焼きが到着した。追加で注文したのはお漬物だけ。酒も最初に一口飲んだら、あとは黙々と鳥を食べる。まずはもも肉を食べる。仕事柄、鳥の骨の位置は熟知しているので、骨付鳥を食べる時には何の問題も感じない。どこをどういじれば骨が外れる、身がほぐれるとわかっている。元・鳥屋のとても稀に発揮されるライフハックだ。
もも肉を片づけたあとは、手羽をむしる。骨になるまでしゃぶり尽くす。そのあとは手羽元からその付け根の胸肉を食べる。実は、ここが鶏肉では一番うまいパートだ。個人的な意見かもしれないが、この胸のつけね根部分には、旨味成分を感じるアミノ酸の量が一番多いという科学的検証もされている。(・・・はずだ)
15分ほどかけて、皿の上には骨しか残らない。口の中の油を漬物でさっぱりさせて、鳥半身完食となる。しかし、次は何を食べようか、という気分にはならない。もはや満腹中枢が満足しきっている。ほぼ肉だけで腹が一杯になっているので、気分は肉食動物の食後に近い。要は、あとは何もしないで寝るだけという気分になっている。
ここでようやく気がついた。鳥せいでは鳥半身直火焼きを食べて、そこでエンドになっていたのだ。他にある串焼きなど食べるだけの余裕がない。胃袋の隙間がなくなっていたから、鳥せいのメニューには大満足と勝手に記憶が書き換えられていたのだろう。
疑問は解消できたし、満足度は高い。できれば自分のうちの近くに支店が出てくれないものだろうか。などと思いながら、ほとんど飲み残していた熱燗をちびちび飲んでおりました。