
JRの駅に貼ってあったポスターを見て、ふと小樽に行きたくなった。ただ、このポスターのような海の見える坂道からの光景を見たかったわけではない。海沿い、運河沿いの街を歩いてみたくなった。ちょっと変わった散歩をしたくなっただけのことだ。

観光客であれば小樽駅で降りるのだろうが、散歩客?なので、小樽の一つ前の駅で降りた。ここから小樽駅を目指すのは観光として見ると逆コースかもしれない。ただ、散歩道としては、小樽駅からの往復にはならないので、こちらのコースの方が良いと思う。
この駅は小高いところにあり、駅舎を出てから坂道を下っていくと、小樽の観光地のはずれにつく。オルゴールやガラス細工の店が並ぶ、小樽屈指の観光スポットだ。夏休みに入ると人出がぐっと増す。それでも平日の昼前であれば、混み具合もたいしたことはない。たまに聞こえてくる西日本訛りの日本語で、ああ観光客が戻ってきたようだと思う程度だ。あれほど蔓延っていた、外国語を話す観光客は壊滅したままだった。

石造の倉庫や洋館を改造した土産物店は、隣の大都市札幌にはないもので、歴史の風格みたいなものを感じる。小樽が昔は経済の中心地だったことの証だろう。こういう歴史的建造物をただ保存するのではなく、再活用する術はもっと他の町でも活用されると良いのだが。

そんな小樽の筆頭名物が「若鶏の半身揚げ」だと思っている。テレビ番組でよく流れる海鮮丼みたいなものは、道外から来た人に任せておけば良い。どう考えてもぼったくりとしか思えない高額丼を平気で食べることができるローカルピーポーなど存在しない。少なくとも自分には無理だ。
若鶏半身揚げは、庶民のご馳走だ。冷静に考えると、某フライドチキンチェーンのチキンよりお高いのだが、なぜかお買い得感がたっぷり感じるのは身贔屓でホームタウンならではの「盛った評価」だという自覚はある。
しかし、美味いものは美味い。ただ、駅からちょっと離れたところにいきなり半身揚げの自動販売機を発見した時は、ここになぜ?という疑問でいっぱいになった。
それでも衝動的に半身揚げを買ってしまいそうになったが、今日は帰りに揚げたてを買って帰るのだという散歩のルール(?)を思い出してなんとか止めることにした。

半身揚げの横には、揚げ物オンリーみたいな自販機も並んでいた。一体、こんな人通りも少ないところで、何を考えて設置しているんだろうとは思うのだが、きっと現地の人の中には、わざわざ買いにくる客がいた入りするのだろう。
ちなみに、この自販機に書かれている手作り惣菜NAMARA Eは、なまらいーと読むのだと思う。なまら(とてもの最上級)良いにかけた言葉だろう。オヤジギャグとして割り引いて考えたとしても、だいぶレベルが低いが、笑ってしまった。

小樽の洋菓子店ルタオと北一硝子が作る商店街というか買い物ストリートは、年々延長していくようだ。このままで行くと小樽駅前まで切れ目なく繋がる気もする。まさに健全な観光地は増殖していく。

北一硝子は小樽運河観光の最大スポット兼ランドマークだから、基本的に小樽観光の起点と思って良いだろう。漁具の浮き玉や石油ランプの製造会社だったものが、今では北海道屈指の一大商業施設になっている。

工場見学もできるらしい。すごいことだ。ただ、夏は暑いだろうなあ。

知らないうちに札幌の名喫茶店可否茶館もここに出店していた。確かにオシャレ感覚で言えば、札幌の街をはるかに超える場所だけに納得の立地だ。

昔の貿易会社や金融関係の建物が、こうした土産物屋に変更されている。昭和の中期には古くなったと無造作に立て替えられたり、壊されたりしていたが、今では観光施設としてしっかり再生されている。

こんな風景を眺めながら20分ほど歩くと小樽の街中になる。屋根のかかったアーケード街はだいぶくたびれた感じもするが、それも今では小樽観光の重要パーツとして働いている気がする。
旧倉庫群を明治、アーケード商店街を昭和の遺産としてテーマに合わせてデザインし直すと良いのになと思うが。観光都市としてのグランドデザインを描くのは市の責任だろう。都市デザインがどこまで考えられているのか。地方都市にとって税金の有効活用とは、街を甦らすことに尽きると思う。それに反対する人も少ないだろうに。

一駅分のお散歩だが、古き商都を歩くのは気持ちが良い。微妙に坂のあるところが、街の表情の変化につながっている。札幌市内中心部は凸凹のない完全平面なので、坂道のある街に行くと不思議な感覚になる。
旅先と言えるほど遠い街ではないが、散歩の気分が変わるのが嬉しい。ぶらぶら街歩きを兼ねて、年に何度かは訪れたい街だなあ。