小売外食業の理論

ワークマンとユニクロ SPAの考察#2 価格破壊と品質

SPAの特徴とは、製造・流通過程での中間マージンをけずった徹底的な価格破壊にある。そして、直接調達のメリットを活かした「高付加価値」がその推進力になる。機能は一流ブランドと変わらないが、価格が半額というのが典型的な販売戦略になる。
安かろう、悪かろうというディスカウント店の(悪しき)特徴とは異なる、訳合って安いが高品質という「驚きと納得」がブランド強化の基盤だ。
ユニクロが関東進出を図った初期の店が、たまたま隣町にあった。通行量の多い街道筋の路面店で、いわゆる倉庫型店舗だった。最近ではあまり見かけないユニクロ単独店で、建坪500坪という大店法規制が存在した頃の典型的なロードサイド立地店舗だった。
以下は余談になる。大店法は個人商店を守るという趣旨の法律だったはずだが、結果的にはチェーン店による郊外型店舗の加速を促し、街の中心部にある商店街の消滅を早めたという天下の悪法だった。
その後は法改正により規制が緩むと、郊外には中途半端な独立店が立ち並ぶ姿は消え、大型ショッピングモールができた。あるいは一つの敷地の中に複数店が出店する集合型ショッピングセンターが多発した。そのため商店街は街ごと消える事になる。昭和から平成にかけての悪政の見本だ。
アメリカで20年以上前に起きていたダウンタウンの崩壊を全く学ばない経産省官僚の失政だと今でも思っている。先行市場で起きている事態や課題を学ばない(学べないが正しいか)経産省の体質は、日本の中小企業を滅ぼす元凶の一つだろう。

安全靴から進化したカジュアルシューズは低価格

話を戻すと、SPAの「高機能」「低価格」は、宣伝広告や運営費用(人件費や家賃)の低減も必要だ。だから、家賃の高い場所に出店したり、宣伝広告費(テレビ広告など)を使い始めた時が、ブランド変質の転換点だと思って良い。
簡単にいうと、高い家賃を払うためにマージンを増やす。そのためには、宣伝広告で「ぼったくり価格」を成立させることが達成条件になる。ぼったくりと言っても、580円が650円になるとか、780円が980円になる程度の値上げなので、元々低価格だから100円あげるとマージンが2割近く上昇する。これが、SPAの値上げマジック効果になる。
しかし、この値上げマジックは悪魔的魅力があり、一度始めるとやめられない。ユニクロはこのマジックの罠にはまった後、延々と値上げを続けることになる。それも基幹商品であるフリースや機能性インナーでそれを始めてしまった(シェアが高く低価格商品の値上げほど悪魔的波及効果が大きい)ことで、ユニクロは次の段階に進まなければならなくなった。
ファッション性という機能とは別のソフト価値の領域に進まざるをえない。ソフトな価値こそ、いくらで値をつけるのも売り手の勝手という「典型的なアパレル産業」の特徴だからだ。
銀座に出店したあたりから、ユニクロの変質が始まった。それは、決して進化とは言えないブランドの変容というべきだろう。地方都市の衣料品店から始まったとしても「アパレル専業のDNA」から逃れられないということかもしれない。

軽くて、底が厚いのが技術の進歩のようだ

ただ、アパレルでユニクロの後継企業が生まれてこなかったのは明らかだ。ユニクロが行った素材開発から繊維メーカーと共同し、画期的な原料製造を自前で調達する。販売企業が製造の源流まで踏み込むという手法が、もうかると証明されてしまった。その一方、ユニクロ的手法では先行投資が膨大になることも明らかになった。
つまり、中小企業では手を出しにくいパワーゲームになり、その領域に手を出せるのは流通大手、つまりイオンやIYといった巨人企業だけになってしまった。
中小アパレル企業は従来型のデザインと既存素材の変化で、一部のファッション嗜好を捕まえるという伝統芸に縋るしかなかった。だから、マンションメーカーと呼ばれる零細企業からユニクロのようなジャイアントが生まれる確率は限りなくゼロだろう。当然ながら、ユニクロの後継者は違う世界から出現した。
SPAの手法を自前の商品に取り込むことで、一般アパレル市場を侵攻してやるという異業種参入だった。それがワークマンという企業だ。

見ただけではブランドもので5000円超の靴と見分けがつかない

ワークマンは北関東、群馬に本社を置くベイシア・グループの一員だが、本業はガテン系の作業着および安全靴、作業靴に特化した専門店だ。ただ、作業着にファッション性を取り入れた(色使いやデザイン差)サブ・ブランドを作り、ダサい作業着をカッコよく見せるという手法で出店を重ねてきた。
出店立地も街道筋の路面店ばかりで、それも町外れにある「わざわざいく場所」というか、畑の真ん中みたいなところばかりだ。現場に行く途中で立ち寄るにはちょうど良い、業界人には便利な立地を選んでいるようだ。その分、一般人には馴染みのない場所で、ふらっと立ち寄ることもない不思議な店だ。
だから、一部の業界人には有名な専門店という位置付けだったはずだ。ところが、作業着、作業靴という特殊性から、「軽い」「吸湿性」「乾燥性」「丈夫」などの通常衣料とは異なる機能性を追求し、それに特化した商品が出来上がっていた。
ファッションとは違う方向から「高機能」衣料品が出来上がり、ファッション性と無縁な分だけ低価格が実現されていた。それを最初に誰が発掘したのかは明らかではないが、ネット上で情報が急拡散し「ワークマンの〇〇はすごく高機能」という評判ができあがった。
靴の分野ではユニクロと同時期にチヨダやABCマートが製造販売一体型のビジネスモデルを組み上げブランドとして成立させていた。ただ、彼らもほぼほぼ靴専業だ。そこに作業着と作業靴の専門ブランド、ワークマンが機能性と低価格を武器に「衣料品」と「靴」を抱き合わせたブランドとして、一気に一般人向けに解放された。
口コミではなくネットでバズることで急速に広がったブランドとしては、ここ最近では最大の人気者になる。
店舗に一度行けばわかるが、すでに客層が変化している。あきらかにガテン系ではない高齢者カップルが、作業着ではない服を買いに来ている。ユニクロの初期爆発期に起きた客層の拡大と同じだ。若者向けの先端ファッションだったフリースジャケットが、ジジババの普段着、防寒着になった時期のことだ。ワークマンの作業用防寒着が、タウンユースになる。安いからジジババが飛びつく。市場規模が拡大し、新機能や高機能化が進む。業容拡大を促す正の螺旋が生まれていく。
ユニクロの後継者は直系のアパレル業界からではなく、傍系から生まれてきた。

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