
昭和中期に生まれた中高年オヤジであれば記憶している方も多いだろう「土佐の一本釣り」という長編漫画がある。当時は青年誌に連載されていたが、主人公は16歳の少年漁師でその町の大人たちとの関わりを描く物語だった。少年ジャンプの主人公は大体が高校生だったはずだから、少年漁師の物語が青年誌に連載されるということはちょっと変わっていた。画風が独特だったこともあり、実写映画化されたコミックのはじまりだった。ヒロイン役がアイドルグループの一人だったから、余計に話題になっていた。(記憶モードです)
その物語の舞台がクレ(久礼と書く)という高知県中西部にある港町だ。その町の中心部にあるのが、昔ながらの市場である「大正町市場」で、今では観光客が訪れ、うまい魚を買うところだ。テレビの旅番組にも度々登場する。

その市場の前に、小ぶりな食堂がある。市場で売っている魚を使った料理も食べられるが、イチオシはスープカレーと焼きうどんだ。焼きうどんは自家製漁師のラー油を使った、コッテリとした味わいのもの。焼きうどんなのに腹持ちが良いという不思議な代物だ。

熱々の鉄板に乗せられた焼きうどん(焼きラーうどん)は、卵と鰹節が乗っている。個人的にはこれをごちゃごちゃと混ぜ合わせて、食べるのが好みだ。味付けは漁師のラー油が効いているので、それなりの辛味はあるが塩辛くはない。卵の黄身のせいで甘さすら感じる。熱いうどんをハフハフいいながら食べると、今日も一つ美味しいものを食べました、ありがとうございます、という気分になる。

とれたて、焼きたての鰹を食べたければ、市場の中にある食堂で楽しむこともできる。焼き魚も含め地場の魚を中心に素朴に美味しいものが用意されている。カツオ丼(ドンではなくドンブリと読む)は、飯とカツオというシンプルな組み合わせが最高で、カツオ好きにはたまらない。
カツオどんぶりで一度やってみたいのが、半分くらい食べたところで、上から冷酒をかけて茶漬けならぬ酒漬けでかきこんでみたい。どこかで鯛めしの変形でやっているらしいが、カツオどんぶりの方が豪快そうではないか。

などと、焼きラーうどん食べながら酒漬けの妄想していたら、知人の魚屋さんが差し入れてくれたカツオの刺身とたたき。そうそう、これを食べにはるばるクレまで来たのだよと、改めて感動するのでありました。
カツオ好きの高知人もわざわざ鰹を買いにくる町、久礼。機会があればではなく、機会を作ってぜひ鰹を食べに行ってほしい。お帰りには、カマスの干物かおすすめであります。