街を歩く

老舗な楽屋

地下鉄新宿三丁目を降りてすぐ、新宿末広亭の裏通りに当たる場所にある「楽屋」は喫茶店だ。赤提灯だけ見ると居酒屋にしか思えないが、歴とした喫茶店だ。

扉を開けて階段を上がった二階にお店はある。この扉を開けるのがなかなか難しいというか、ふらっと立ち寄る雰囲気ではない。末広亭に出演する芸人さんたちが楽屋がわりに使っているという話を聞いたことがある。

入り口には、お店に入りやすいように説明書きがあるというのも、入店する難度の高さの証明だろう。それにしても、うどんや蕎麦が出てくる「純喫茶」というのは初めてのような気がするし、そもそも純喫茶という単語も死語に近い。若い世代ではわからないのでは。

メニューを見るとお値段もそれなりというか普通というか、場所柄を考えると高くはない。気になるのは昆布茶日本茶がメニューに堂々とあること。これは昭和中期に喫茶店メニューとして死滅したと思っていた。まだ注文できるのだということに感動した。
それよりも気になったのが、うどん・そばになかにある「つづみ」というもので、これは一体どんなものだろう。月見はあるから、卵以外の何やら丸いものが二つのっている?などと、頭の中は疑問符だらけだが、あえてそれを注文する勇気もないな。

店内はとても明るい。新聞や本を読むのい不自由ない。純喫茶といえば、店内が薄暗く、怪しい商談をする場所問いいったイメージがあるが、この健全さはなんといえば良いのだろう。個人的にはものすごく好きで、いつもこういう明るい場所を探している。おそらく新宿では唯一と言ってよさそうだ。

テーブルの上には当たり前のように灰皿があり、おしぼりが最初に出てくる。ブラックコーヒーの味は、昔懐かしい酸味と渋味が強いものだった。シアトル系コーヒーが全盛となった平成に、日本中から消えていったコーヒーの味だと思う。エスプレッソではなく、濃い味のコーヒーが飲みたいのだと思っても、今やどこにも無くなってしまった「幻のコーヒー」に限りなく近い。
多分、軽井沢にある茜屋珈琲店本店では今でも飲めるのかもしれない。銀座とか日本橋の古い喫茶店を丹念に探せば見つかるかもしれない。でも、新宿、渋谷、池袋という東京西部では見つかりそうもない。
貴重な一軒をとして、個人的な歴史遺産に認定しておこう。ここにくるときは一人に限る。そして、次に来るときは、謎のつづみうどんとビールにしよう。

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