
随分昔にオートキャンプをしていた頃、手頃な野遊び道具としてオピネルのナイフを使っていた。刃渡りがちょうど良いというのもあったが、折りたたみ式で持ち手の柄がちょうど握りやすい大きさだった。手入れもせず乱暴に使っていたが、たまに手入れをする程度で錆も出なかった。
そのナイフをいつの間にか無くしてしまっていたらしい。道具箱の中からなくなっていた。ただ、野遊びに行かなくなったので気にもしていなかった。近頃また野遊びに行こうかと道具をあれこれ整理していたら、やはりナイフが見つからない。シングルバーナーも見当たらないので、野遊びにいく時に持ち歩く道具をひとまとめにしたまま、どこかで処分してしまったようだ。
道具はなくなればまた買えばいいと思っていたが、どうもそれは正しくないようだ。気分の問題もあるが、それ以上に使い込んでいくと手に馴染むというか、使い勝手の良さが増していく。新しいものを手に入れると、またその「馴染ませる」工程を再度こなさなければいけない。それがどうにも面倒臭いと感じるようになった。

オピネルはフランス製のナイフで、刃がステンレスのものと鉄製のもの2種類がある。ステンレスのものはまさしく工業製品で、製品のばらつきもないし、刃に錆が出ることもない。
鉄製のものは、あれこれ問題がある。まず刃先が研ぎ上がっていないので、自分で砥石を使い研ぎ上げる必要がある。マーカーに刃物職人としてのプライドはないのかと言いたいが、値段がそれなりに安いこともあり、文句をつけてはいけない気がする。
刃を研ぎ上げたら、丁寧に機械油で刃先を保護する必要もある。すぐに錆びるからだ。鉄製の刃物なので、錆びると表面だけではなく内部まで侵食される。だから使っていない時も時々取り出して、研いでみたり、機械油で保護してやるなり、色々と手間をかけることになる。
折りたたんで柄の中に刃を収めようとしてもスッキリとハマらないこともあるらしい。木製の柄なので湿度によって膨らんだりするようだ。そうなると柄の方も調整が必要になる。
多分、この面倒臭さを楽しめということなのだろう。フランス人の感性というのは理解し難いと思う。これがドイツ製だったりすると0.5mm単位での精度で仕上がっていそうだ。アメリカ製だったら最初からステンレス刃しか作っていないと思う。おフランス製のゆるさというか適当さは、フランス好みの人が楽しむものだろう。個人的には錆びて使えなくなるナイフなど、ありがたがる代物でもないとは思うのだが。
と言いつつ、砥石を新しく買わなければと思うあたり、だいぶフランス病に犯されている自覚もあるので……