
高田馬場は典型的な学生街だと思っている。地下鉄で一駅先に早稲田大学がある。学生数を考えると超巨大大学と言うべき規模だろう。高田馬場自体には予備校も多く、都内では珍しい日中から若者だらけの街ということになる。
当然、学生相手の安くてボリュームがあってそこそこうまい飯屋・レストランはたくさんあるし、一時期ほどではないが学生目当ての大型居酒屋も多い。その中で、高田馬場界隈屈指の焼き鳥有名店が「とり安」だろう。
店名の通り、リーズナブルというより価格破壊的な焼き鳥を提供する店だ。感覚的な判断だが、串焼きの値段は他の店の半額程度、それ以外の料理が300円程度が中心なので、まさに昭和の値段でやっていますという感じだ。
焼き鳥の味付けはかなり濃いめだが、塩タレどちらでも楽しめる。塩で食べる焼き鳥は基本的に鮮度勝負なので、塩がうまい店は「食」として安心だ。

焼き鳥屋に行くと、肉だけ食いまくるイメージがあるが、この店の名物である「煮込み」を箸休めがわりに注文するのが常連的お作法だろう。塩味でだしの効いた透明なスープの中に、大根、にんじん、ごぼうといった根菜がたっぷり。それに手羽先が1−2本入っているシンプルなものだが、焼き鳥の濃い味を中和する煮野菜が嬉しい。

小鉢料理もラインナップが素晴らしいと思っている。昔は鳥ささみのたたきなど生食料理もあったが、最近は食品衛生上の問題で生の鳥はなくなった。その頃の名残が、湯がいた鳥ささみをウニソースで和えたもの。生の鳥が出されていた頃は、人生が変わるくらいうまいものだと思っていたが、今のやり方でもなかなかの逸品だ。
小鉢を散々食べた後で、焼き鳥をしめに頼むのがこの店ではよろしいようだ。冬であれば燗酒、夏であれば升酒を冷酒で頼む。
ちょい飲みするだけなら千円で十分いける。コロナ前は店内の半分以上が学生だった。今回は、学生が見当たらない。学生が賑やかに酒を飲む時代は終わってしまったのだろうか。やはりコロナの後遺症は、あちこちで目立たない形で発生しているようだ。サラリーマングループも、せいぜい1時間で撤退している。4人以上の客も見当たらず、2−3人という少人数で飲むのが定着したようだ。居酒屋業態にとって、これは死活問題だろう。

コロナが落ち着き営業再開となっても、客単価、客席回転数共に戻ってこない。原材料は値上がりし、家賃は変わらず、人手は相変わらず不足気味で時給も上がる一方。それでも値上げをするとたちまち客は店を変えてしまう。
何もいいことがないとぼやく居酒屋経営者の顔が目に浮かぶ。ささやかな応援ではあるが、焼き鳥を食べ一杯やりに通うから、是非是非お店は続けてほしい。おねがいしますと心の中で言いながら帰途に着いた。
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