
ファミリーレストラン業界の新標準になるかもしれない客席の電源設置と自由使用だが、実はこれを先行していたのはマクドナルドで、ファストフード業界の方がアイドルタイム(暇な時間)のイートイン席の活用に積極的だった。
スタバなどの喫茶、カフェも同様で、店内で作業をする=長居をされることを嫌がらない体質なのだと理解していた。だから、ガストが先導している「店内テレワークスペース」運動も、ファミレス業界が最終ランナー的な遅さがある。
おそらくチェーン展開する業態で、この長居対応に追随しないのは居酒屋くらいだろう。
それくらい、アフターコロナでは「家の外」の空間の使い方が変わっている。潜在化していたニーズを顕在化させて店舗利用の動機にする試みは、まだまだ進化の途中だ。あれっと思うような自店舗の使い方を試行錯誤する時代になったといえる。

また、アフターコロナ社会で再度発生している人手不足と、客への非接触対応というニーズが配膳ロボの導入を推し進めている。ただ、これは設備投資がかかることと、店内のロボット移動スペースの確保などいくつか導入課題があるから、現時点で対応できるのは大手ファミレスくらいしかない。基本的にカウンターで注文して自分で商品を受け取る仕組みのファストフードなどでは導入されそうにないので、外食業界全体に広がる気配はない。
ただし、この先に二足歩行型配膳ロボが開発されれば、つまり人が歩けるところであれば狭くても、段差があってもロボット配膳が対応可能になれば、小規模店舗であれ導入される可能性は高い。少子高齢化で確実に働く人は減るのだから、非接触対応よりも人手不足が強い導入圧力になる。もっとも、同時に客も減るという議論は少子高齢化の別の課題として考えるべきだ。
ただ、配膳ロボ導入拡大機には依然としてロボットシステム、つまり店内の卓番指定設定とか、注文したメニューと配膳完了したメニューの突き合わせであるとか、さまざまな課題を管理するシステムが必要になる。
おそらく、ロボ導入には具体的、物理的なロボット本体よりも、それを支えるシステムの導入が肝になるはずだ。メニュー注文のシステム(オーダーエントリー)との連携も必須で、トータル・レストラン・オペレーション・コントロール的なものになる。
もちろん、有人作業との連携も必要だ。30年ほど前から一般的になった店内無線によるオーダーエントリーシステムも、当初はそのコストの高さから否定的な意見が大半だった。しかし、いまでは客席が30席程度の小規模店舗でも導入が当たり前になっている。
アフターコロナのDXで最大の目玉商品は、このロボ配膳を前提としたレストラン統合システムだろう。その点で、全店導入を決めたスカイラークグループの進度が業界で一番早い。当然、学ぶこと、知見の広がりもこのグループが独占することになるはずだ。後追いでは学べないことも多いし、先行グループの進歩に対し、周回遅れになる可能性も十分ある。

現状では配膳ロボの移動速度や、形状などあれこれ進化の余地が残っているのは確かだが、まず導入実験から全店導入による課題の洗い出しに進む必要がある。特に、この手の進化が早そうな仕組み、機械に関しては、完熟まで待っていようとすると間違いなく出遅れる。
同じような出遅れ問題はネット環境、自社アプリの整備など外食企業各社で頻出している課題だ。ただ、経営者の覚悟が必要というというほどの大問題ではない。最大の課題は経営者の知見のなさにあり、目の前にある問題を把握できるか、解決策を見さだめる目があるかの踏み石でしかないだろう。


配膳ロボが実際に移動しているのをみたのは、これで2度目だった。正直な感想だがこのロボットが移動する時はなかなかうるさい。移動中に客との衝突(妨害?)を避けるためなのだと思うが、あれこれ喋りながら移動する。そして、その音(声)がアニメ声というか、甲高い音声なので明らかにうるさい。この辺りも将来的には修正されていく課題だろう。(機械と人のコミュニケーションという新しい問題になる)
また、自分の注文したものを取りだすと、いきなり帰り始める。おそらく商品を載せている配膳台にセンサー(重量あるいは視覚)がついているのだと推測できるが、帰るのが早すぎるだろう、と思わず突っ込みたくなる。


もう一点気になったのが卓上POPスタンドで、これはWi-Fiの接続法とか自社SNSのアカウント誘導などの販売促進機能がある。サイドメニュー追加促進の面もある。ただ、意図的なのだろうが、最後の一面が「純然たる他社広告」だった。
店内備品を広告媒体にするというのは、なんだか微妙な雰囲気がある。ただ、これもコロナ前からやっていたような気もするので、アフターコロナとは別の視点で見るべきだろう。そもそも4面あるスタンドの内容を全部確かめるなどという「変な客」は、自分以外にそうそういるとも思えない。
アフターコロナ世界では、いろいろな意味で、これまでなんとなくやっていなかったこと、不文律として制限されていたことが、DXの名を借りて、あるいはアフターコロナ対策として行われるのだという予感はする。
生き残りの条件は、とりあえず試してみようかという自由な発想にあるのかもしれない。そういう意味でスカイラークグループはすごいのかもと思い直してしまった。