街を歩く, 小売外食業の理論

外食DX考察 居酒屋で考えたこと

自宅近くにあるチェーン居酒屋といえば、この店一択になる。すでに20年以上営業しているが、平成の居酒屋立地大移動時代の生き残り例だ。居酒屋各社が都心部、繁華街での出店が過当競争になり住宅立地に出店して、居酒屋ではなくファミレス化して三世代ファミリーを狙った時期があった。居酒屋各社の挑戦は大部分が失敗という結果だったが、それでも地域密着型として生き残った店もある。この店は、その稀有な生き残り事例になる。個人的には愛用させていただいている、ありがたいお店だ。
さて、三世代ファミリーとは祖父母、両親、孫を意味する。スポンサーは祖父母達で、メリットは孫と食事ができる。両親達は、無料で親孝行な食事ができる。孫達は、自分の好きなものを居酒屋特有の小ポーションで適当に頼めるのがメリット。参加する誰もがハッピーになるファミリーイベントだ。
特に、メンバーの誰もが自分の好きなものを注文できるスタイルが重要だった。たとえば全員で幕の内弁当を頼むと、中には一つや二つ嫌いなものが入っている。お子様ランチを頼むと、子供が嫌がるなど、メニューに伴うトラブルは多い。多人数飲食、それもファミリーだからおこる忖度なしのぶつかり合いだ。
それを解決してくれたのが、平成の居酒屋であり、回転寿司だった。和洋中がなんでもありのメニューで、それもシェアが必要ない個人向けポーション(盛りつけ量)というのが要点だった。
その三世代利用が広がるとともに、子供同伴でありながら居酒屋で酒を飲むことを忌避する雰囲気もなくなった。子供が酒席に参加することへの違和感・抵抗感が消えたのは、戦後文化史的には画期的なことであるような気がする。
自分も、その例に漏れず三世代飲食を楽しんだ。三世代飲食が普及していくとともに居酒屋メニューも進化を続け、メニューから骨のある魚料理が減少し、一口サイズの肉料理が増えた。デザート群も拡充していった。揚げ物とチーズ料理が増えた。それでも、その進化は夜需要が中心で、ランチに関しては比較的保守的だったはずだ。

ところが、アフターコロナでは居酒屋でもランチが主要業態になりつつあるらしい。ランチセットA/B/C +日替わり限定などという牧歌的時代はとうの昔た。今ではファミレスを遥かに超える和食系定食屋としてフルラインアップしている。
感覚的にはファミレスの500円日替わりランチよりお高い価格帯なのだが、定食屋の雄「大戸屋」よりは安めの設定だ。ご飯に味噌汁とおかずという定番ランチ3点セットみたいなもので考えると、これはなかなか魅力的な構成だろう。
ランチの時間帯に行くと、ほぼ満席で待ち時間ができるほどの混雑ぶりだった。コロナの最中とは全く状況が異なっているようだ。(自粛期間はランチなのに自分一人で客席独占みたいな時もあった)
客の大半は高齢者カップル(多分夫婦なのだろう)と女性グループで、男性ひとり客はほとんどいない。駐車場が必要ない立地なので、大多数の客が徒歩来店というのも特徴だった。

生姜焼きと唐揚げの日替わり定食

定食だから飯の量は多めだし、日替わりメニューはだいたいが高カロリー系なので、完食できるか微妙だなと思っていた。周りを見ていると日替わりを注文する客がいない。メニューの作り込みは本社だろうから、主力である都心部立地の店舗に合わせて作られているはずだ。それであれば男性サラリーマンを主客にしてのガツン系も不思議ではない。ただ、周りの注文で多かったのは小鉢御膳だった。

DXという視点で居酒屋業態を眺めてみれば、いろいろファミリーレストランと違うことが見えるのかなと思っていたが、この店ではコロナ前のオペレーションがそのままだった。
タブレット注文などの変化もなし。会計方法についてもキャッシュレスはクレジットカードまで。平成どころか昭和の時期と変わらないなあ、というのが正直な感想だった。大判の紙製メニューブックは確かに見やすい。商品の一覧性も高い。ただ、これで良いのか?という出遅れ感を感じてしまう。

すでにガストでは撤去が始まっているアクリル仕切り板だが、これもほぼ型式認定と言いたいくらいの小ぶりなものだった。そもそも空気感染(エアロゾル感染)に関しては全く効果がない仕切り版を押し付けたのは行政の過誤だから、型式認定にならざるを得ないだろう。仕切り板無し営業は許さないが、置いてあれば大きさは問わない的な行政対応をとやかく言っても仕方がない。
ほぼ満席の繁盛しているランチタイムを見て、昔に戻った、良かったねというのは容易い。ただ、この繁盛ぶりがどこから来ているのかは、もう少し見続ける必要がありそうだ。
ただ、この居酒屋も新宿にある店ではタブレット化されていたから、何もしていないということではない。たまたま住宅立地の店では、高齢者客が多いので、客の使い勝手や不平不満を考えタブレット化を遅らせているという解釈もできる。
明らかにタブレット注文の許容度は世代格差が出るので、紙のメニューで選び口頭で注文するという従来型スタイルが既存客離れを防ぐ効果はある。この点も全体対個店という視点を考慮しなければならないリアルだ。DX、デジタル対応の遅れは今後の主客層である若い世代の離反につながる。ただ、アフターコロナで高齢者に偏った客層を切り捨てることもできない。どちらかを選べないと、全てを失うことになるはずなのだが。何も変えずに化石化するか、何も変えないから高齢者を中心に固定支持者を確保するか、経営戦略としては一番の課題だろう。
最後に残った唐揚げを食べながら思った、今後の居酒屋の難しさだった。

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