
ファミリーレストランも全国に展開するメジャーブランドとローカルでは知名度抜群のローカルチェーンがある。首都圏で展開する老舗三社のうち、ガストとロイヤルホストはほぼ全国チェーンだが、デニーズは首都圏と関西圏が中心の広域型ローカルチェーンというべきだろう。サイゼリヤも全国チェーンだが、九州では苦戦している。その原因が、九州のローカルチェーン「ジョイフル」にあることは間違いない。ガストも九州では店数が少ない。
簡単に言えば、ガストの下の価格帯で展開するロープライス・ファミリーレストランが「ジョイフル」だ。九州の小都市郊外に、こんな場所にファミレスがあるのかとびっくりする立地でよくジョイフルに遭遇する。
メニュー構成を見ても、洋食特化型のファミレスが多かった時代に、不思議な和洋中の組み合わせメニューで、デザートも豊富だった。当時は、喫茶店のメニューがどんどん肥大化するとこうなるかな、というような感想を持っていた。関東では店舗数が少ないが、たまに郊外でお目にかかると、ついつい入ってみたくなる。その原因にはメニューの不思議さもあるが、いろいろな意味でローコスト経営をおこなっているから、お店を行くたびに学びがある。

そのローコストぶりがアフターコロナでどう変化したかと、興味津々で見に行ったのだが、意外と変化がない。テーブル上にアクリル板の間仕切りがあるのは、コロナ以降当たり前の光景だ。それ以外に変わったところが見当たらない。メニューもテーブルの上に置かれているが、「紙」のままでデジタル対応はない。
レジで会計をするときにも、今では当たり前になったキャッシュレス対応は行われているが、無人レジになってはいない。デジタル化=ローコスト運営と思っていたが、なんだか拍子抜けしてしまった。

日替わりランチ500円は納得の低価格だが、これもサイゼリヤ・ガストなどの低価格プレイヤーは「全員右に倣え」の状況なのでジョイフル的な変化はなし。ハンバーグが食べたくて行ったのだが、(曜日別に日替わりメニューが変わる仕組みは当たり前として)たまたま訪れた日はハンバーグメニューではない日だった。こういう不運な目にはよく会う。ツキがないというか、ハズレが多いというか、ダメダメ人生を思い知らされることが多い。
仕方がなく、日替わりランチではない「普通のランチ」を注文する。ライスはつくがドリンクバーは別料金なので、ファミレスランチとしては高くついた。
胡椒のきいたペッパーハンバーグは好みの味なので、満足したランチにはなるので文句を言うつもりもない。ごちそうさまでした、だ。しかし、このランチ営業もあくまで普通の状態で、つまりコロナ前と変わらない。(それもすごいと言えば、すごいことだ)
とにかく「対顧客」という点では、コロナ前と比べて何の変化も起きていない。DXという言葉は関係ない世界のようだった。厨房のオペレーションを含めた、いわゆるバックヤードでは変化が起きているのかもしれないが、客席に座っていては変化が理解できない。

気になって、朝食の時間帯にも出掛けてみた。そこで、ようやくちょっとした変化を発見した。朝食の客のほとんどが高齢者だったが、その中の数人が仕事を持ち込んでいる気配がある。パソコンを開いて何やら資料作成していたり、ノートを開いて電卓を打っていたり、何冊も本をテーブルの上に置いてコーヒーを飲んでいたりする職業人的な客がいる。年齢を推定するにノマドウォーカーとまでは言わないが、いわゆる仕事・作業をしている人たちだ。
確かに、朝のファミレスは、申し訳ないほどガラガラなので、仕事をするには良い環境だ。駐車場が広いし空いているので車で来るときには荷物が多くても構わない。テーブル席を独り占めすれば、おそらくオフィスの作業環境より数段上だろう。空調も効いていて、BGMがかかっていて、おまけに人声もほとんど聞こえてこない。これまで課題だった、電源の確保もほとんど全てのファミレスで対応完了している。無料Wi-Fiも整備されている。
あまり目につかない変化だが、コロナが産んだファミレスのインフラ整備だとも言える。他のファミレスでこうした客を見かけなかったのは立地のせいなのかもしれないと気がついた。確認してきたファミレスは住宅地の真ん中にあるとことばかりで、住宅地から外れた幹線道路沿いは、この「ジョイフル」が初めてだった。
時間帯によって提供メニュー・食べ物を変えるというのは当たり前の考え方だが、滞在環境を変えるということも「アフターコロナ対策としてはアリ」なのだと気がつかされた。
DXはハードだけの変化ではない。運営方法というソフトの変化も必要なのだと。ただし、これはジョイフルで気がついたことだが、ジョイフルが適切に対応しているかというと、そこはちょっと違いそうだ。客が「居座りやすい」空間を探し出した、というか発見しただけのような気もする。

卵とトーストの朝食がドリンクバー付きで459円だった。これはロイヤルホスト、デニーズより安くガストより高いという微妙な設定で、これまた色々と考えを巡らせる原因となった。600円朝食では卵が2個になる。卵の個数は目玉焼きのため、はっきりとわかりやすい。目立つ差だ。サラダがついたり、ソーセージとベーコンがついたりという変化はあるが、一番の違い?目玉焼きの数になる。これが価格の差なのだな、とわかりやすい指標だ。あとはトーストの付け合わせになる。高い方の店ではバターとジャムが無条件につく。安い方の店ではジャムがない。(頼めば出てくるかもしれない)。ガストは、頼めばジャムがつく。
400円程度の朝食メニューでは、ジャムのコスト(おそらく一つ10円程度)が損益分岐に影響を与える。単品のコスト管理としてはかなり厳しいポイントだ。ジャムの原価10円を削減するか、あるいは朝食としての満足度を重視してジャムをつけるか、コストと顧客満足のバランス判断になる。ジャムのあるなしは意外と大きな問題提起だ、と考える経営者がいるはずだ。その結果として、低価格帯朝食ではジャムなしになっている。
おそらく朝食は採算に合わない店が多いだろう。ところが、アフターコロナでは売上の増大、客層の拡大を目的に朝食を重視するようになってきた。そうなると、朝食の意義をどう捉えるかも考え直さなければならない。事業の収益性以上に、ブランド価値、居心地の良い空間を提供するという新しい価値づくりを目指すのかどうかだ。
自分としては、そこに事業生存の策があるような気がする。朝食時間帯こそDXの対象にして考え直すのが良いのではないか、などと目玉焼きを食べながら思った。
ついでに朝飯で食べる目玉焼きはターンオーバー(両面焼き)でケチャップをかけて食べたいのだが、それを頼めるようにメニューブックに書いておいてほしい。おまけに、なぜかこの目玉焼きセットに醤油がついてくるのだが、ケチャップもつけてほしい。と言いたかったのだが、わがままな客にならないように堪えておりました。