街を歩く

沖縄的シニカルさに乾杯

銀座の端っこというのが正しいかどうか。沖縄のアンテナショップのある界隈は、各県のアンテナショップが集まっているプチ租界的な感じがある。その中でも、やはり風格があるというか王者の気配を見せているのが、このシーサーにまもられている「わした館」だろう。
5世紀あたりから始まった大和朝による日本統合戦争には関わりなく、中近世まで独立王国を保っていた琉球王国の守り神も、こうしてみるとずいぶん愛嬌がある。古代日本を舞台にした八咫烏対シーサーみたいなファンターがあれば面白いのになあ、などと妄想してしまう。それくらい、日本離れした「生き物?」だと思うのだが。

そのわした館の地下に、ゴージャスな泡盛売り場がある。東京ではここが一番泡盛の品揃えが多い場所ではないか。沖縄本島、離島を含めた沖縄各地の地泡盛?がこれでもかと並んでいる。独特の匂いがある泡盛は、人によって好みがあるようだが、自分のお気に入りは石垣島の「八重泉」だ。これがイチオシで、二番はない。
たまたま推理小説を読んでいたら、主人公の探偵が八重泉を愛飲していると書かれてあり、興味本位で一本試し買いしてみた。それ以来、ずっと八重泉にハマっている。石垣島まで買い出しに行ったこともある。
ただ、百貨店の酒売り場程度では置かれていることは少ない。かなり品揃えにこだわりのある本格酒屋でたまに見つけることがあるくらいだ。だから、銀座に来て荷物が少ない時は、わした館でこの酒を仕入れることにしている。
この時も八重泉を見つけ、一本手に取ろうとしたら、このPOPが目に飛び込んできた。
世の大多数の酒飲みは、この一言に心が動揺するだろう。「いや、俺の場合はそんなにひどくないはずだ、いやいや、そんなはずはないだろう。まあ、言い切る自信はないけど、ない、と信じたい。ないはず、だろうなあ……………、でももし、ダメだったとしたら、すまん、許してほしい」
なんとなく、こういう弁明とも言い訳ともつかない「心の中の独り言」が聞こえてきそうだ。
それとも「八重泉」には、何か特殊な成分が入っていて、こういう残念な人に変わってしまうのだろうか。うーん、いかにもいかにも……………微妙だ。

「初心者注意」というのも親切そうで、これまたずいぶんな言い分に聞こえる。それでも与那国島の泡盛と比べれば、まだずいぶん度数が低い。マイルド級だ。与那国の泡盛は、アルコール度数がとてつもなく高いので火がつく。危険物なので飛行機の機内持ち込みに制限がある。
一口試して、これは「並」の人間が飲める代物ではないと学習したものだ。だから、この度数くらいであれば、まだまだ人の飲み物と我慢できそうな気がする。
それよりも気になるのが、隣の「無礼講なんて・・・」という言葉だ。これは社会階層的に下層で虐げられているものの、心の叫びだろう。サラリーマンで言えば、ベテラン課長にいじられる新人ヒラ社員的な、会社カーストの最低に生息するものの叫びに聞こえる。
テレビドラマの中だけにしかいないと馬鹿にしていた、「俺の酒が飲めないのか?!」と迫る上司に初めて出会った時は、世の中には人外の化け物が本当にいるのだと思った。歳をとったらこうなりたくないという「ダメ人間」の実例を見たのもそれが初めてだった。人として尊敬に値しないどころか、その存在が悪だろうと学んだのもその時だった。今、振り返ってみれば、絶対にこいつより偉くなって正しい生き方を指導矯正してやろうと思わせてくれた、ある意味人生の恩人で反面教師だったような気もする。
どうも、泡盛を愛する沖縄人にも、同じような苦汁を味わった人がいるのだろうなあと、ほろ苦い仲間意識を持ってしまった。そんな時は、シークワーサー果汁を入れた「八重泉」で、ほろほろ酔うのが良さそうだ。

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