
蕎麦屋の楽しみの一つが、蕎麦を食べ終わった後に飲む蕎麦湯だと思う。その蕎麦湯を出してくる器、湯桶がその蕎麦屋のステータスを決めるとし信じている。店主のこだわりみたいなものだろうが、これがプラスチックの丸い筒みたいなやつだと、どんだけ美味い蕎麦を出しても個人的には失格扱いだ。2度と行かないとまでは言わないが、まちのなんでもある蕎麦屋認定をしておしまい。さすがに神田の老舗蕎麦屋ではそんな無様なことはないが、上野から浅草、深川あたりでは結構な数の店がプラ容器を使っている。縁のかけたどんぶりで蕎麦を出すようなものだとは思わないのだろうか。あくまで個人の嗜好の問題でありますが。札幌のお気に入りの蕎麦屋では、立派な湯桶に蕎麦湯がなみなみと入って出される。これが蕎麦屋の標準ではないか。

札幌では名前が知れた蕎麦屋の代表の店だが、その店にも店頭にサンプルが並べられている。ただ、このサンプルが全店同じではない。各店オリジナルのそばメニューがあるようで、時間があるときはこのサンプルをゆっくり眺めるのが楽しみだ。個人的な好みで言えば納豆そばなのだが、最近は人気がないようで、サンプルケースの端に押し込められていることが多い。伝統的な天ぷらそばよりさまざまなネタが載ってそばの方が人気筋のようだ。

入口の暖簾より前に消毒液が置かれているのが、まさに今風の世界を感じさせる。時代の変化は大袈裟なことではなく、こうした細々としたところに現れるものらしい。

胡麻そばとは高級なそばのことだとずっと思い込んでいた。どちらかというと茶そばのような蕎麦粉に練り込んだ蕎麦だから、高級蕎麦というより変わり蕎麦なのだろう。自分の舌が変化したのか、そばが変化したのかはわからないが、どうも最近は麺の太さがマシ、ツルッと啜るよりもっそりと噛むタイプに変わってきたような気がする。ただ、これはそばの吸引力が落ちたせいかも知れないので決めつけてはいけないが。50年も続いていれば蕎麦もツユも味が変わってしまうものだろう。
東京のお蕎麦とは違う、お蝦夷のお蕎麦として長く続いてもらいた。