
ドンクといえば、自分の中では高級パンの代名詞だった時期がある。個人経営のおいしいパン屋があることを知る前は、デパートの中にあるインストアベーカリーこそ高級パン屋だと思っていた。フランスパンを売っているというのが、高級店の意味だった頃だ。今ではすっかり当たり前でスーパーでもメーカー品のフランスパンが買える時代だから、当時のフランスパンの高級振りが理解できる人はもはや高齢者しかいなくなっただろう。
パン屋で焼きたてのフランスパンを買い、無造作に放り込まれた紙袋を抱えて歩くとプチプチと音がする。そんな映画のシーンを見た後、プチプチ音を聴きたくて、並んで焼きたてのバゲットを買ったことがある。バゲットという名すら知らなかった、昔々のお話だ。
そのドンクで(自分の中では神格化されているパン屋で)、まさかのカレーパンを発見した。その驚きと落胆みたいな複雑な心境は、ちょっと説明するのが難しい。なぜにカレーパンなどという庶民的な世界に突入してしまったのだというガッカリ感と、老舗ブランドの名にかけてどれだけすごいカレーパンを作ってくれたのだろうという期待感と。

形は扁平小判型、フィリングはバターチキンという、カレーの中では高級優秀種と見なされるものを使っている。カレーの中身をあれこれいじくり回すのは、カレーパン高級化の基本的戦略で、「和牛」「三元豚」などうまい肉型で勝負するか、「海軍カレー」「欧風カレー」などカレーの作り方などで差別化するか。
そこをちょっと横にそれて、バターチキンカレーというのが「ドンクらしさ」かもしれない。揚げパンではなく焼きパンなのもチープ感、庶民感を避ける狙いがあるのかもしれない。などなど勝手にドンク擁護の理屈をつけてみた。
カット断面を見るとわかるが、やはりカレーの上に狭い空洞ができている。個人的な評価基準では、この空洞が大きいカレーパンは残念認定となる。揚げタイプでは、空洞が断面の半分以上になるものもある。
空洞が大きいと食べた時に「スカ」感がある。かぶりつき噛み締めると、空洞の分が一気に潰れてしまうので、歯ごたえがないからだ。だからこの程度の空洞は、ギリギリだけど許容範囲としておこうと思う。
ただ、よろしくないのは底面の生地が薄いところと厚いところの差があることだ。これは、噛んで身見るとわかるが、厚い生地のところはカレーの味が少なくなる。逆に生地の薄い部分はカレーが濃厚になる。この違いを楽しむか? というと、それはない。
バターチキンは、ソースとして優秀だった。マイルドなカレーという感じがするが、味はしっかりと強い。安いカレーパンでよくある「インチキっぽい」味はかけらもない。安いカレーパンは特売安売りのレトルトカレーみたいな味がする。要するに深みが足りない。このバターチキンはレベルの高さが感じられる。
でも、ドンクでカレーパンを買いたいか、と言われるとちょっと微妙な気がする。全くの個人的な思い込みなのだが、ドンクだしなあ、やめてくれないかなあ、的な気分が強い。メゾンカイザーではカレーパンが売っていない。(見たことがないだけかもしれないが)やはり、バゲットの横にカレーパンは似合わないと思うのだけれど。