
知人に連れられて西新宿の外れにある会員制レストランに行った。ネットで行き方を調べながら向かったのだが、店が見つからない。看板も出ていない上に、お店が2階にあったせいだが、だから会員制なのかと妙に納得した。
スポーツバーのような大型モニターがあったのが不思議だったが、コース料理の説明というかプレゼンテーションを、これを使ってやっていた。ふーん、時代は変わるもんだなと、これも微妙な気分になった。
この店の売りは、「低温料理の肉料理」だ。ちなみに低温調理はすでに家庭にも入り込んでいて、家庭用調理機器も家電販売店で買える。低温調理とは、基本的にプラスチックバッグに入れて脱気した食材を、低温(60−80度)程度で湯煎する料理法で、真空調理とも呼ばれている。業務用ではスチームコンベクションオーブンを使い、庫内温度を60−80度、湿度100%で食材の水分蒸発を防ぎながら長時間加熱する。狙いは、高温による素材の変性(タンパク質が固まる、脱水して硬くなる)を防ぐことにある。
柔らかく、そして肉汁が残った仕上がりの肉になるのが最大のポイントだろう。

最初に出てきたのは、コンソメスープで中に入っている肉が柔らかい。確かに、コンソメスープは見た目とは全く異なり、作るのにとても手間がかかる。一見、インスタントラーメンのスープのように見えるが、シェフの腕前と時間的コストがかかるので、どこのレストランでもそれなりの高額商品となっている。低温調理の肉を具材にしたコンソメを作るのは、確かに理論的だ。お味は、とてもうまいというしかない。これは自分で試してみたいものだ。

低温調理した内臓肉などを合わせたサラダ。ドレッシングがさっぱり系だったせいか、思いのほか軽めに仕上がっている。良質のハムよりも塩分が少ないから、サラダ向けの肉だと感じる。温玉を混ぜてとろみを増すというのも良いアイデアだ。和風で行くのであれば、ごま油とポン酢、イタリアン的に行くのであればチーズ控えめのバジルソースが合いそうだ。肉は塊で料理して小分けにすれば良いので、好きな肉を選んでアレンジできそうだ。豚ならフィレ、牛ならランプなど脂身少なめの部位が良さそうだ。

中盤の「華」として出てきたのが、和牛のサーロインを使った代物で、野菜と蕗味噌を、この肉で巻き込んで一口で食べろと言われた。言われた通り肉を巻いてみると、小ぶりのいなり寿司くらいになり、一口では難しいのではと思いつつ、無理やり口に放り込んだ。
当然ながら、噛むのすら難しい量なので、窒息しないように注意しながら少しずつ噛み砕くというか噛みちぎっていく。確かに、味噌の味が口の中で肉と絡むのでうまい。肉には火が通っているというより、脂身がとろけている程度なので(低温調理だから当たり前だが)、牛脂がじわっと口いっぱいに広がる感じだった。
レアのステーキのように、「今、俺は肉を食っている」感はしない。あえて言えば、肉肉しい味のクリームが溶けていくとでもいう不思議な感覚だった。
ただ、低温調理をしても、タンパク質の熱変性温度以下で加熱殺菌するのは難しいはずだから、この料理を家庭で再現するのは危険かもしれないなあ、などと妙なプロ意識で考え込んでしまった。やはり、安全安心にはプロの腕前が必要だ。
低温調理の肉尽しは、あまりに美味しいので次回に続く。