
新宿三丁目駅の近く、末広亭の隣にある洋食屋がお引っ越しをしていたのに気がついたのは先月だった。この界隈は比較的頻繁に訪れていたが、コロナの2年間はほとんど足を踏み入れていなかったせいもある。
ただ、それ以前もこの店の前は何度も歩いていたので、一体いつ引っ越してきてリニューアル開店していたのか、一度お店の方に聞いてみなければと思う。
街の洋食屋というのは、もはや天然記念物に指定した方が良いほど減少している。貴重動物と同じレベルで、みんなで保護しないと無くなってしまう絶滅危惧種と思っている。それだけに、またこの店を使えるのは、ただただ嬉しい限りだ。

以前は一階の店だったが、引っ越した先は地下になっていた。そこに文句をつける気はない。旧店舗の時と客席数は同じくらいだが、昔は二階がパーティーなどで使われていたはずだから、だいぶ小ぶりな店になったようだ。それでも、使うのは自分一人か、せいぜい知人と二人でという感じだから、全く困ることはない。

久しぶりにきたので、まずはビールを注文してみようとメニューを見たら、瓶ビールがあった。最近、ビールといえば生で中ジョッキが標準仕様みたいだが、洋食屋で頼むとすれば、何と言っても瓶ビールだろうと思う。
そして、瓶ビールといえばこの「キリンラガー」だ。復刻版といえば良いのか、一時期スーパードライと一番搾りにやられてしまい、どんどん消滅しかかっていた。ビール界の帝王が、過去の栄光には及ばないが、また復活してきたようだ。老舗の洋食屋では、どこに行ってもラガーが出てくるのが、何だか嬉しい。
勘繰っていえば、洋食屋をよく使う層がすっかり高齢化して、昔懐かし「キリンラガー」に戻ってきているということなのかもしれない。ちょっと小洒落た居酒屋では「ビールはどちらにしますか」などと、数種類から選べるようになっているが、老舗洋食屋は選択肢なし、キリン一択で良いのだろう。
ちなみに、昔の上司にビールはキリンだけという困った愛社精神を発揮する方がいて、宴会でスーパードライが並んでいると、店の従業員にキリンを買いに行かせるという、今であればカスハラな人がいた。そんな昭和な価値観も、今では消滅したことだろう、めでたしめでたし。などと、麒麟麦酒を見るたびに思い出す。

この店の名物じゅうじゅう焼きが好物なのだが、これは写真の通りの料理で、大量のキャベツを少量の焼き肉と合わせて食べる「野菜料理」だ。鉄板が熱いので、一緒に添えられてくる「酸っぱい醤油系ソース」をキャベツの上からダボダボとかける。すると、鉄板でソースが焼けて蒸発する。その熱気でキャベツが熱々になるという仕掛けだ。
肉はあくまで添え物で、キャベツが主役という、洋食・ステーキ屋らしからぬ料理だが、これが美味い。おまけに値段はハンバーグより高い。肉たっぷりで出てくる生姜焼きと同じくらいなので、じゅうじゅう焼きという名前に肉料理を想像した客はがっかりするかもしれない。
この店は洋食屋なので、当然ながらオムライスもあるしナポリタンもある。その絶対定番を押しのけて注文したくなる「じゅうじゅう焼き」は、やはり熱々の「前菜」ということなのだろう。でも、じじゅうじゅう焼き定食もあるから、ご飯のおかずなのか・・・。お気に入りの洋食屋のちょっとした謎だ。