街を歩く

美味いものを好きなだけ食べる

だから、料理をシェアするのは嫌いだ。一口ちょうだいと言われると断るわけにもいかず、仕方なく自分の皿を差し出すのだが、一口で終わらない人が多い。その対応として、コース料理で頼むことが多かった。
が、これも善意の一言で台無しにされる。私、これ食べないからどうぞと、差し出される。善意なのだと思うが、コース料理は「ちょうどの量」設定されているはずで、お隣の一品追加では適正量を超える。そして、これもあれもいらないからと二皿三皿押し付けられると、このコース選択が間違いだったと言われるのに等しい。
そんなことが続き、コース料理はやめて、注文の主導権を握る方向に転換した。「好きなものがあったら言ってね、あとは適当に私が注文するから」スタイルだ。
そして大事なことは、基本的に全部の料理を希望人数分注文することだ。これで、二、三品注文するとテーブルの上に乗りきらないくらいの量なる。当然、料理をシェアしようというものもいなくなる。自分勝手ということはわかっているので、強制はしないが、だいたいこれでうまく収まっている気がする。

そんなわがままを果たすのにとても役立つお店が新宿歌舞伎町の近くにある。美味いものを食べたい時には、この店を含めて3軒ほどのローテーションで新宿界隈をうろうろしている。もう「新しいうまい店」を探すのには熱心ではなくなってしまった。気に入った店で、はずれなし、冒険なしでうまいものを食べていれば良いのだという、いわば安心志向で食事を楽しむ「人生最後の境地」にたどり着いたということだろう。

ホヤとコノワタの塩辛、バクライ。これを出す店は少ないが、冷たい日本酒のつまみとしては抜群というか、ある種至高の高みにある。これに匹敵するのは、塩ウニくらいだ。仙台の文化横町にある居酒屋で食べた塩ウニは絶品だった。全国のウニ名産地でウニを食べたわけではないが、仙台のウニは衝撃的だった。東京では、塩ウニにお目にかかったことがない。文化の違いか、嗜好の違いか。理由はよくわからない。ただ塩ウニには熱燗の方が良い。

東京周辺で食べる魚で一番好きなものは、カワハギの薄造りだではないか。肝醤油で食べると美味さが倍増する。大衆魚だと思うが、実はフグより美味いと個人的には思っている。これもシェアしないで、一人一匹食べるべき肴だと密かに信じている。八重洲にある老舗割烹の名物料理「鯛のポン酢」もこれと似たところがあり、比較的量の多い一人前はシェアせず独り占めにする。

逆に一皿の量が明らかに多いという料理もある。馬刺しはその典型で、三切れもあれば十分だといつも思うのだが、だいたいその倍以上が通常量らしい。これは、申し訳ないが、逆にシェアさせてくれと相方に頼むしかない。同行者が生肉嫌いであれば注文を断念するしかない。熊本の馬刺し屋で馬刺し三種森を独り占めして(一人で食べに行ったせいで)酷い目にあった記憶があルためだ。何ごともやりすぎ・食べすぎてはいけないという教訓だった。

煮物や炒め物は調整が難しい。意外とお値段の高いものは量が少ないので一人一皿原則は守りやすい。問題は安くて量が多いものになる。一人では食べきれない量が出てくると、それを注文するにはためらいが出る。この辺は、何度か行って実物を確かめるしかない。比較的大きな魚のカブト煮みたいのもが、一番判断の難しいメニューだろう。対のカブト煮と言われても、たいの「かぶと」の大きさには随分と差があるし・・・。

この店のおすすめの一品、豚の角煮も正直独り占めするのは問題がある。角煮は、なんとか一人で食べ切れる。しかし、添えられているのが角餅で、小ぶりではあるがご丁寧に二個ついている。この餅が曲者で、一人で完食すると、本日の食事はこれでおしまいとなる可能性が出てくる。危険物というしかない。
この日は、比較的大食の先輩と二人だったので、全てを完食できた。好きなものを好きなだけ食べて、お腹いっぱいになり気持ちよく酔っ払い、実にハイクォリティーな一夜だった。ちなみに注文は全て自分でしたので、我が人生、今夜に限り、一点の曇りなしという、プチ・ラオウ気分でありました。

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