
新宿三丁目の飲み屋街の中心部にある、存在感が強烈な「どん底」の周りは、ビルにもならないまま、二階建て、三階建の古い建物というか低層建築が雑然と立ち並んでいる。昭和中期からあるとすれば、もはや半世紀以上経っているはずで、老朽化というか古びた外観というか、どちらにしても風格ある建物が多い。そんな場所なので、店も、店の看板もユニークなものばかりでついつい写真に撮りたくなる。

ぱっと見ではアルファベットだけの看板で、アメリカ中西部の小都市に行くとこんな看板がかかっていそうだ。オーナーのセンスというものだろうか。しかし、新宿三丁目だしなあ、などと複雑な感想になる。これが青山の裏通り辺りにあれば、ちょっと小洒落た店感がするっものだが。新宿のはずれでは、なるほど、この店も50年の老舗なのだな的な感想になる。

その隣にある、このなんとも、どこかで見た感じの店名が理解できるのはもはや高齢者しかいないだろ・・・・などと思うが、店の風格からして高齢者向きな気もするので、それはそれで客層を選んだ店舗、コンセプトなのかもしれない。
そんなことを考えながら入り口のステッカーを見ていたら、「喫煙目的店」という、なにやら目新しい言葉に引っかかってしまった。文字通りに解釈すれば、この店は「非喫煙者お断り」的なニュアンスが感じられる。なにやら、ヒミツクラブ的な怪しさも感じる。同じサイン「喫煙マーク」が、三枚も貼られているのだから、「喫煙」者以外、入ってきたらダメなんだからな的店舗側の強い意志が感じられる。
これはこれで、新宿三丁目の飲み屋らしく、ポリシーありということで納得してしまう。池袋西口あたりにも、こんな店はありそうだ。渋谷は道玄坂の南側のごちゃごちゃした辺りであれば、何軒か密集してありそうだ。
青山とか原宿では無理そうだし、東京駅で言えば丸の内側にはほぼ存在していないだろう。八重洲側の古い飲み屋が固まる辺り、高島屋の裏あたりであればなんだかひっそりとありそうだ。今や、「喫煙推奨」店は、滅びゆくものたちへの挽歌ともいえる存在のようだ。

その向かい側に、以前から気になっていた中華料理屋がある。確か、この店では「昆虫」料理があったはずで、一度食べに行こうと思いながら、同行者を探していたのだが、なかなか見つからない。
なにも言わずにつれていって、いきなり「虫料理」を食べさせたら、その後の人間関係に深刻な打撃を与える可能性があるのは間違いない。日本で昆虫食の習慣がある地域は極めて限定されている。そこの出身者でも、昆虫食拒否者は存在しそうだ。
だから、どうしても事前に承諾を取らなければと思っていたが、この話をするといつも速攻で断られてしまうので、いけないままだった。やはり一人で行くしかないか。でも、いざ一人で行くと簡単に怖気付いて、「ビールと酢豚とチャーハン」などと普通の注文をしてしまいそうだし・・・。
こちらのお店は、店頭に提灯もかかっているので営業中だと思ったが、自粛期間はお休みと書いてあった。休んでいても、店の存在をアピールしているのだから、商魂たくましいと褒め称えるべきだろう。新宿三丁目を昼間に散歩すると、発見することは多い。