
赤福は伊勢の名物だ。お伊勢参りに行くと、必ずお世話になる。関東圏では目にする機会も少ないが、名古屋から西に行けば、新幹線ホームの売店で山積みされて売られている「名物土産」だ。だから、初めて見た時は名古屋の名物だと思っていた。その後、京都や新大阪でも目にする機会がありずっと不思議に思っていた。伊勢名物と知ったのはしばらく経ってからのことだ。
流通経路を考えれば、名古屋・伊勢商圏と京都・大阪・奈良商圏はほぼほぼ一つの広域商圏と考えて良さそうだ。移動時間で考えると、東京を中心とした首都圏程度だろう。意外と関西商圏は狭いということか。

赤福は伊勢神宮の参拝客に振る舞うあんころ餅のような和菓子だが、きめの細かいあんこが独特の舌触りで、中に潜んでいる小振の餅とよく調和している。砂糖が高級品だった時代に、長旅で疲れた客には、この甘さが心に染みただろう。今では、伊勢神宮前まで車で乗りつけるので、体に染みいる感激はないにしても、赤福のすっきりとした甘さはお伊勢詣での上品な定番の楽しみだろう。
箸ではなく小ベラで食べるのもちょっと嬉しい。昔は、伊勢に行かなければ食べられなかっただろうから、さぞかし貴重品だったはずだが、今では関西、中京圏では気楽に手に入る。そういえば、名古屋のういろうも東京駅で帰るしなあ。地域名産を手に入れるには、全く地域にこだわらなくて済む時代になった。ありがたいような、ありがたみが消えてしまったような・・・。この赤福も新宿のデパートで手に入れた。

赤福は現代ではすっかり古風に見えるようになった和菓子の典型だが、造形美という点ではオーバーデコレーションな最近の洋菓子、特にケーキと比べると、遥かに好ましい。簡素な美しさの方が心に染みる気がするようになった。歳をとったということもあるが、手仕事の美しさは簡素に通ずるということがわかるようになった。簡素な美を理解するには、それなりの人生を送り、見聞や経験をつもことが必要なのだろうと思い至った。
確かに、赤福をうまそうだなと、造形美を堪能する間もなく、パクリパクリと食べていた時代は間違いなく「若僧」だった。「美」に価値などあるものかな、などと思っていた。我が身を振り返って思う。
食べる前によく観察する、そして「美しさ」を楽しむようになるには、ずいぶんと余裕のある時間が必要で、それなりに手間がかかる。そんなオヤジの道楽を理解できる程度の人生経験をなんとか積んだようだ。この歳になって、ようやく赤福の良さが分かったというのも、なんだか情けないが。このあんこの曲線は実に美しいなあ。