
HISが旅行業以外の商売に手を出したのは一昨年の暮れの時期だった。旅行会社の発展としての外食業進出みたいな言われ方もされていたが、個人的には社長の趣味的なものではないかと思っていた。一号店は川越の町外れにあり、それもビルの二階というかなりすごい立地だった。売り物は打ちたての蕎麦と天ぷらということで、典型的な日本そば、古典的な商売をどのように企業化していくのか、なかなか興味がわいて、年の瀬にぶらぶらとみに行ってみた。その後半年ぐらい音沙汰なしだったが、一年たってみると都内のあちこちにお店が増えていた。どれどれということで飯田橋の近くに空いた新店をみに行ってきた。外観を見ると典型的な松の蕎麦屋だが、立地が面白い。ビジネスホテルの一階で、どうも朝はホテル宿泊客向けの朝食提供、昼は蕎麦、夜はちょい飲み居酒屋という三毛作になているらしい。なるほど、コレは旅行会社の発想だなと思った。

蕎麦は普通の、本当に普通のそば、普通にうまい。妙にこだわりがあって変形させるより、ストレートな蕎麦が良いだろう。都心で店を出すときは、この普通さを守ることがなかなか難しい。妙な差別化意識が先走り、変な蕎麦になって結局客層を狭めることになりかねない。お味を確かめるにはもりそばとかけそばを注文するのが良いのだが、この注文の仕方をするとお店の人が、こちらを怪しんで構えてしまうのは経験的にわかっている。どうしてもやりたいのであれば、まず森を頼み、一息置いてかけそばを頼むくらいだろうか。わさびがパック入りなのはちょっと不思議な感じだが、今や回転寿司でもわさびはパック入りが主流で、わさびを使うのはもはや少数派、あるいは変人に近いのだろう。つゆはちょっと薄口だった。お江戸の蕎麦つゆというより全国的な平均値といったところだろう。ただ立地がビジネスホテルなのだから、全国的平均値でも頷ける。


夜は天ぷらをつまみに一杯やる店になるようだ。三毛作ができる立地はなかなか見つけ辛い。ましてやホテルの一階に場所を取るのは、相当な条件交渉がいるだろう。その点、ホテルに対する誘客力を持つ旅行代理店であれば、それなりの影響もありそうが。普通の外食企業では、ちょっと手の出ない立地とも考えられる。この辺りが新規事業としての切り口になっているとすれば、なかなかの深慮遠謀ではないか。
次は、夜にそばでいっぱいやりながら考えてみたいものだ・