松本名物が飴だと知ったのは先月松本を所用で訪れた時のことだ。松本そば祭りは何度も行ったことがあるので、蕎麦が名物というのは知っていた。松本に行くのはほとんど車移動だったので、駅の土産物屋に立ち寄ることもなく、その手の情報を全く手に入れていなかった。豊科にあるわさび農園はよく行っていた。わさび菜が欲しくて、夏になると足を伸ばしていた。そのわさび菜の漬物が駅前の直営店で売っていることから、わさび商品も観光名物土産だとは分かっていた。しかし、飴ねえ。

ネットで調べてみると飴屋は老舗が多いようだ。駅前からちょっと歩くと何軒かあることがわかった。だが、平日は休みの店もあり、おまけに自社ホームページがないところも多い。ネットで住所くらいはわかるが、その店の名物みたいな情報がなかなか見つからない。まさかどの店でも同じ飴を製造販売しているわけではないだろう。
それでも、なんとかネット情報で見つけ出したのは、松本駅のキオスクで何軒かの飴を買えるらしいということ。飴探索の手始めに朝早くに駅に行って、まめ板というものを手に入れた。食べてみるとピーナッツが入った、うっすらと甘いせんべいのような感じのものだった。水飴でもち米を練り上げたもののようだ。カリッとして、さっぱりとした甘味というのはなかなかめずらしいものだった。飴というよりは「飴菓子」という感じがする。夏場は溶けるので注意みたいなことが書いてあった。確かに、これが溶けたら団子になってしまう。夏の土産には向いていないことはわかる。ただ、ちょっとクセになる食感で、今まで知らなかったことは残念だった。

その後に駅から10分ほど歩いたところにあるおしゃれなお店で「あめせんべい」を買った。綺麗な箱に入っているが、手に取ると妙に軽い。この箱の大きさであれば、それなりにずしっときそうなものだが。

中身を取り出すと、なるほどなあという感じがする。せんべいというよりおぼろ昆布みたいなもので、おそらく綿菓子のように砂糖を薄く伸ばしたあめを何層にも巻き取ったような感じだった。

横から見てみるとよくわかるが、凧糸を巻いたようなものに似ている。取り出して食べてみると、薄い飴を伸ばして巻いたもので、幅1cm程度でパリッとわれる。口に入れるとパリパリと砕け、ミルフィーユ状というか薄い層が何重にも重なっているのがわかる。確かにせんべいと言われれば、なるほどと思う程度に薄いあめだった。
これは袋で持ち歩くとあっという間に粉々になる。箱に入れて、そっと運ばなければ、薄い飴の食感が台無しになる。取り扱い厳重注意の危険物的土産物だ。
まめ板もあめせんべいも、自分の想像する飴とは全く違っていた。菓子というより芸術品に近い。松本は文教都市だと聞いてはいたが、こうしたところに現れるのがやはり文化として本物の印だな、などと上品な甘さの飴を食べて思ったことだ。湧き水と蕎麦と飴、松本はしばらくでいいから住んでみたい街だ。パルコもあるしね。