最近はすっかり使っていなかった富士そばのお話だ。つまらないこだわりの話でもある。所用で渋谷に朝早く行った時、今日は絶対に朝そばにしようと決めていた。渋谷には何軒も立ち食い蕎麦屋があるが、会社勤務時代にはずっとお世話になっていた「富士そば」にいくことにした。生まれて初めて富士そばを使ったのは、二十代前半に上京してきた時のことだから、ずいぶん昔になる。正直にいうと、とてつもなく美味いと思ったわけではない。ただ、普通に美味いから、いつでも便利使いしてきた。朝早く、夜遅く、イレギュラーな時間帯での食事にはとても重宝した。首都圏には大手立ち食いそばがいくつかあるが、山手線西側では富士そばがメジャーだ。大手町、虎ノ門あたりに行くと小諸そばとかそば太郎などが多い。駅の立ち食い蕎麦は沿線上に系列店が並ぶため、利用する私鉄によって店が異なるのも首都圏アルアルだろう。西武線は狭山そばだった。個人的には東横線の蕎麦が好みだが、市内にある立ち食いそば店と言えば「富士そば」一択に近かった。

その富士そばが、時々面白い相手とコラボする。PSゲームソフトの「龍が如く」とのコラボは楽しみだった。コラボ商品が実にユニークでいつも笑ってしまう。実食をしたこともあるので正直モードで言えば、名前はすごいが中身は普通というのが感想だった。それでも、日常食の立ち食い蕎麦をネタにできるというのは密かな楽しみだと思う。どうやら今回はコラボ相手がテレビ番組らしい、と店頭のバナーを見て最初に思った。ただ、この絶叫しているとおぼしき女性が誰だかわからない。ひょっとして、富士そばの従業員か?などと考えていたら、どうやら主演女優のようだ。そしてコラボ商品を確かめると、この方とはなんの関係もないようで、老後の資金がなくても食べられる安心価格ということのようだ。うむ、謎は解けたが、悩みは解消されていない。なぜ、このコラボ?相変わらず富士そばは謎が多い。

結局、このコラボ商品であるワンコインプライスの「そばとハーフ丼のセット」を注文した。最初から完食できるか怪しいぞとおもいつつ食べ始めたが、やはりごはんは完食できずに終わった。上に乗った辛い豚肉はそれなりに美味く、ミニ丼としてはバランスが良いものになっていた。丼の具材としては少なめなので、どちらかというとご飯のお供、ふりかけを肉トッピングに変えたというかんじだった。そばは普通のかけそばだが、これが今日食べたかったものだから文句はない。

お安いご飯セットを頼みながら、どうしても諦めきれずに注文してしまったのが紅生姜のかき揚げだった。カロリーが・・とか、脂が・・、とか色々と思うことはある。しかし、紅生姜の天ぷら・かき揚げはそうした健康常識を押しのけるほどの威力と魅力がある。大阪南部で生まれて初めて、紅生姜の天ぷらを食べた時の衝撃は忘れられない。大阪南部は、大阪北部とは違うスーパーローカルフードが存在すると学習するきっかけになった。
立ち食いそばのかき揚げの凄さについては色々と語るべきポイントがある。が、特に強調したいのが、蕎麦を食べ進め後半になる頃に、衣がつゆを吸い込みぐずぐずに溶け出していった状態のことだ。丼の中がオートミール状態になったあたりが一番うまいと思う。たぬきそばでも似たような現象は起こるが、とろけてぐずぐずになった衣の絶対量が足りない。やはりかき揚げが優位だ。
そして、そのお粥状になったそばつゆをおかずに白飯を食べる。今度は米がうまい。ほぼ禁断の食べ物だ。イカ天もこのノリで食べることがある。立ち食いそばのイカ天は例外なく衣が分厚いので、はっきり言って衣のぐずぐずを楽しむための食べ物だ。これが、ゲソ天になると衣の絶対量がさらに増えるので尚よろしい。仙台とか山形ではげそ天が立ち食い蕎麦屋のデフォルトアイテムで、ずいぶん楽しませてもらった。東京周辺ではイカ天がメインでゲソ天はサブどころか控えのメンバーに入れてもらえないことが多く、今後の活躍を期待したい若手扱いだ。がんばれ、ゲソ天。
結局、この日は立ち上がるのも苦しいほどの満腹感を、朝一から抱えてしまい、どうにもならない1日のスタートになってしまった。おまけに、お安いはずのコラボ商品を頼みながら散財してしまったという後悔も残り・・・。それでも久しぶりの立ち食いそばはうまいなあと思った朝でした。