
札幌生まれは間違いないが、札幌育ちかと言われるとちょっと苦しい。中学の頃の家は江別にあり、その後は北広島に引っ越したからだ。当時は地の果て扱いされていた北広島(そのころは町だった)だが、国鉄がJR化されたあとJR北海道は千歳線の強化に乗り出した。そのため、いつの間にか北広島市は(人口が増え市に昇格した)札幌駅から18分の便利なベッドタウンに変貌した。ちなみに札幌地下鉄を使い札幌駅から地下鉄南北線南端、真駒内駅までが18分。大通り駅から東西線東端の新札幌までが19分なので、北広島は通勤面から見て一応地下鉄圏と同等とみなされる。日中は1時間に5−6本が発着するので発車時間を時刻表で確認する必要もない。便利な街に進化したものだ。
そして、いまや日ハムボールパーク建設地として全道的に一気に知名度が上がり、ボールパーク開幕以降は全道一観光客が集まる場所?になるはずだ。一気に地価も上がったそうで、北広島はすごいことになっているのだ。
JR千歳線で札幌に向かうときも、ボールパーク工事現場が見える。夏に来た時には目立たなかったが、今では柱や屋根がニョキニョキと生えてきた感じがする。

その北広島の駅前に串鳥が店を構えている。札幌駅周辺にも串鳥は何軒かある。隣の駅の新札幌にも大きな串鳥の店がある。だから、なぜわざわざこの駅に店を出したのかずっと不思議に思っていた。だが、串鳥というブランドがすでに繁華街の繁盛店から地域密着型に変わっていたのだ。
気がついたのはここしばらくのことだ。確かに串鳥は人気があるので札幌中心部の店では満席で断られることが多い。そのため繁盛店の周りには支店が増殖する。ただ、札幌都心部で溢れた客が北広島まで流れてくるに来るということは考えにくい。
週末を中心に家族連れがファミレス的に使う。平日は夕方前から高齢者の客が押しかける。5時を過ぎれば地元のサラリーマンもやってくる。明らかに都心部とは違う客層だ。駅から歩いて1分の場所にあるが、通勤客が帰りがけに一杯やるという感じではない。チェーン店の地元化というのはありそうで、なかなか難しいことだ。

カウンターに一人で座り、もっきりを一杯注文し、好きな串を2−3本食べる。酒のおかわりをして、それを飲んだらサッと帰る。滞在時間は30分ほど。そんな飲み方が最近の好みだ。串鳥の開業以来のサービスで、お通し代わりに大根おろしと鳥スープが最初に出てくる。これもつい最近までは無料だった。今は100円になる。お通し代というよりテーブルチャージみたいなものだろう。世の中のぼったくり居酒屋ではお通し代500円だの700円だのという時代に、何とささやかな100円と思ってしまう。焼き鳥が出てくるまでの繋ぎに鳥スープはとてもお腹に優しい。

若いカップルが多いのは値段がこなれているだけではなく、串のバラエティーがあるせいだと思い込んでいた。チーズなどを多用した串メニューは、おっさん向けの焼き鳥屋としてはずいぶん先を行っている。が、カウンターに座って他の客の注文を聞いていたら、サラダを頼む人がとても多い。串鳥でサラダかと、初めて気がついた。確かに焼き鳥だけでは野菜が足りないし、食事としてはバランスが悪い。おっさんの一人飲みには存在しないニーズだ。サラダが売れる焼き鳥屋とは、新しい業態と考えても良いだろう。
一人飲みだと話に夢中になることもないので、他人様の会話に気がついたりもする。駅を降りて1分でたどりつき、30分の滞在で満足する焼き鳥屋で、学ぶことはそれなりにたくさんある。これも人生のささやかな楽しみだな。