
長野県松本市にあるつなぐ横丁の本家に行った時、焼き鳥番長の店長がどうも見覚えがあると感じていたのだが、まさか札幌の店長が松本にいるはずもないだろうと声をかけなかった。そして、つい最近、酒が解禁になったこともあり、週末に札幌のつなぐ横丁に店長に会いに行った。そうしたら、お店が休業中で店長は松本に帰っているとのこと。隣の店の店長が教えてくれた。確かに札幌はコロナのせいで酒販売がアウト。ところが長野県は、何の制限もない酒飲み安全地帯だったから、店長は里帰りして松本で働いていたのだろう。一声かけてみるべきだった。というような会話を隣の牛タン屋の店長とした後で、そのまま牛タンで一杯やることにした。

メニューを見ると、札幌で仙台推しという微妙なものだが、仙台に行ったことのない札幌市民には歓迎されるかもしれない。自分としては東京から札幌に来て、仙台名物を食べることに躊躇うのは仕方がない。が、地元民優先で考えれば仙台名物を食わせる店は正解だろう。周りになるラブ店も博多名物とか、北海道的でない店が並んでいる。
メニューを確かめると仙台名物が並んでいる。牛タンに松島の牡蠣、妙義の油揚げと笹かまぼことなれば、オール仙台的ラインナップだ。これに付け加えるとすれば海のパイナップル「ほや」くらいだろう。ただ、札幌人に対する知名度という点で、ちょっと仙台推しは弱い気もする。同行した札幌の知人は松島の牡蠣のことは詳しくないようだった。北海道でいえば厚岸の牡蠣、半歩譲ってサロマの牡蠣が有名すぎるから、北海道外の牡蠣はアウトオブ眼中ということだ。

仙台の牛タンは厚めに切った牛タンを特製ダレに漬け込んで熟成させ、それを炭火で焼くというシンプルな料理だ。付け合わせは南蛮味噌で、これの調整と牛タンの下味付けがそれぞれの店特有のものになる。仙台市民はそれぞれ贔屓の牛タン店があり、その微妙な差異を熱く語る人も多い。ただ、仙台人にも牛タンに冷淡な人もそれなりにいるので、牛タン=仙台人の全員ラブということではないようだ。北海道人のジンギスカン・ラブの方が、万民度という点で熱量があるような気がする。流石に札幌は大都市で、仙台牛タンの一大チェーン店「利久」の支店があるから、仙台牛タンが簡単に楽しめるはずだ。

ふと気がついたが、カウンター周りのPOPが新しいのはコロナ休業明けだからなのか。週末とは言え夕方とは思えないほど店内が空いているのが悲しいなあ。冬になり生牡蠣がで始めるが、蒸し牡蠣もなかなかの旨さだ。仙台で食べた蒸し牡蠣の昆布締めは絶品だった。牡蠣のアヒージョもうまいなあ、などと牡蠣料理の脳内連想ゲームが続く。

焼き鳥番長はそろそろ営業再開しているはずなので、次に行った時は店長と松本で出会ったことを肴にして話をしてみよう。
つなぐ横丁と東京にある恵比寿横丁、どこか似ているようで微妙に違いを感じる。その差は天井から伝わる列車の通過音だけではない。恵比寿横丁の博多料理屋台でかかっていたBGMはオール博多?出身シンガーだった。甲斐バンド、松田聖子(久留米だったはず)、井上陽水、武田鉄矢etc。おそらく博多出身者が開けた店だったのだろう。郷土愛というか博多耽溺がすごかった。俺の街はすごいんだぞ、という圧力がひしひし感じられる。それと異なり札幌の横丁では、札幌人が運営する、札幌人のための、札幌人が感じる全国のうまいものという感じがする。
よくいえばより都会的、悪くいえば形だけコピーしたみたいなものだ。スーパー大都会・東京では地元愛爆発型本物志向が人気があり、中都会・札幌では行ったことのないめずらしい地方のエッセンスをアレンジし取り出したスマートさが受ける、ということのようだ。好みで言えば札幌のスマートさが好きなのだが。