
虎ノ門にあった港屋が突然閉店してから何年たっただろう。その後、都内某所に支店が開いたとネットニュースで見たが、ついつい行きそびれていた。たまに港屋インスパイア系のラー油蕎麦屋でお茶を濁していた。その港屋が最近、羽田空港に開店したというニュースを見て、これは是非行かなければと思いつつ3ヶ月ほど経ってしまった。ようやく空の旅ができるようになり、いつもより1時間ほど早く羽田空港に向かった。

羽田空港の全日空側の地下から搭乗口に上がるエスカレーターの奥にある、メルセデスベンツのPRスペースの一角に港屋ラウンジがある。どう見てもカフェだ。洒落た空間だ。エスプレッソとかなんちゃらラテが似合う店だ。確かに港屋も立ち食いそばながらエレガントな空間だったが、さすがにここまでカフェぶりにはしていなかったような気がする。

店頭に出されたメニューを見ると、一番上にあるのが「冷たい肉そば」だった。これを見て初めて蕎麦屋だとわかる。蕎麦以外にはカツカレーもある。ドリンクはコーヒ−100円、生ビール500円というこれまた微妙な値段で、どうやらここはカフェではないぞという気がしてくる。しかし、港屋の蕎麦は普通の蕎麦ではなくラー油蕎麦で・・・みたいな説明が一切ない。港屋のそばとは何であるかを理解している客以外を無視しているとも思える。ただ、初めて食べる港屋のそばに感激する人は多いと思うのであまり心配はない。

入り口のカウンターで注文すると呼び出し器を手渡され、席で待つセルフ方式だった。客席はコロナ対策がされていて席間の間隔も広いゆったりモードだ。しかし、どう見てもこの空間はスタバ的なカフェなのになあ。などと考えながら100円のコーヒーを飲みつつ待つこと数分で呼び出された。

久しぶりの肉そばだった。記憶にあった味を思い出しながら、もぐもぐと食べ始める。ラー油蕎麦は麺が太めで硬いのが特徴だから、するっとではなくモグモグになる。それでも、思っていたより麺が細かった。記憶とはかなりいい加減なものだから、太いと思い込んでいただけかもしれない。ラー油入りのツユももっとしょっぱいような記憶だったのだが、甘さが思いのほか強いという印象がした。どうやらインスパイア系の味に記憶が改竄されてしまったらしい。
この甘めのツユがやはりうまい。またツユの量がたっぷりあるのが嬉しい。つけ麺も含めてツユの量が少ない店が多いので、このタップリ感にありがたみが出る。卵も生卵ではなく温泉卵だった。これはやはり最近の衛生事情の影響だろうか。
ちょっと多いかなと思っていた蕎麦をたちまち完食した。やはり肉そばはうまい。羽田空港の絶対定番はこれに決まった。羽田空港は、搭乗時間に十分余裕を持って、ラー油蕎麦を食べに来る場所になる。早朝便以外は、早ランチ、遅ランチ、ティータイム、全時間帯、ラー油蕎麦を食べることにしよう。
人生長く生きているといいことはたまにあるものだ、などと長寿を願う蕎麦を食べながら感動しておりました。