
つなぐ横丁で焼き鳥を平らげた後、街をフラフラしていたら、あの気になる店「ゴールデン酒場」に巡り合った。キンキラキンに輝く看板を眺めていれば、馬刺しの文字があるではないか。おまけに店頭のれんは「肴」「呑」「飯」と、積極的にこちらの胃袋を責めてくる。上手な店作りだなと感心した。
そして、馬刺しに飢えていて街を彷徨っていただけに、ほぼノータイムで暖簾をくぐった。店内は完全開放型で、入り口から開けっ広げというか、ほぼ外で飲んでいる雰囲気だった。浅草の浅草寺西側、町外れにある商店街の飲み屋がこんな感じで、路上にはみ出る客までいるアウトドア飲み屋だった。松本も負けてはいないらしい。ただ、冬はこのスタイルは無理だろう。

まだ熱燗が恋しい気温ではないが、ここはあえて松本の地酒を熱燗で注文した。ちょっと甘めで、懐かし系の日本酒だった。昭和の酒は大手メーカーも地元の酒造所も、みんなこんな感じの甘めの酒だった。焼き鳥によく合うのはこの手の日本酒だと、当時は思っていたが、今はちょっと違う感じがしている。好みとして甘すぎるからだが、平成時代に日本酒の作りが劇的に進化したため、そこから取り残されたように元二級酒を売っている蔵の酒はどこか懐かしい。二級酒探しは酒造りが盛んな場所を旅をするときの楽しみの一つだ。

馬刺しは、今やスーパーでも売っているくらいポピュラーな食べ物になったが、ほんの20年ほど前までは、わざわざ名産地まで食べに行く代物だった。福岡で熊本から直送だから美味いですよ、と言われて食べた馬刺しは確かにうまかった。血の味がする野性味と濃厚な脂が熊本馬刺しの第一印象で、それを九州特有の甘い醤油で食べる。これは焼酎によく合うぞと思った。
その後しばらくして、信州馬刺しを食べたとき、油よりも旨みを感じるというか、血の味、鉄の味に甘さが混じり込んだようなかんじだった。生姜醤油で食べるとさっぱりして、これは濃口の日本酒が良さそうだと思った。
久しぶりに信州馬刺しを食べたが、やはり旨味が引き立つさっぱり系だった。生姜で食べるのが定番だが、ここはちょっと変化球でニンニクスライスで食べてみたいななどと思ってしまった。高知のカツオの食べ方だが、ねっとりとしたカツオと鉄分の味が馬刺しに重なったせいだ。
常連となって通い続ければ、そんな面倒な注文も受けてくれそうだが、初見では失礼だろう。レモンスライスは、馬刺しに絞りかけるのではなく、馬刺し最後の一切れを楽しんだ後、まとめて口の中に放り込んで酸味でお口直しとした。
もう一つか二つ、つまみを注文したいと思ったのだが、カウンター席は外気オープンで喫煙可能席だった。両サイドに愛煙家が席につき、少々耐え難い環境となり早めに退散した。11月くらいまでは寒さをあまり感じないで楽しく飲めそうだなあ。でも、夏は暑いし蚊がよってきそうだななどと考えながらお店を出た。
名店でした。