
松本と聞くと、昭和歌謡の名作で歌われた新宿発「あずさ2号」のイメージが強く、中央本線の駅だと思い込んでいた。よくよくJR 路線図を確かめると、中央本線は松本の手前、塩尻駅で名古屋方向に向かう。松本駅は塩尻と長野を結ぶ中間点の扱いだった。北アルプス方面の山登りや上高地観光に行く場合は、この松本駅が鉄道乗り換え地点に当たるのだが、それでもあずさ2号が通ると思い込んでいた中央本線駅とは違う。篠ノ井線だった。しかし中央本線の駅ではないが、あずさは通る。全く自分の思い込みの記憶違いだ。
ちなみに新宿発のあずさ号で松本までは2時間40分ほど。東海道新幹線で言えば東京・新大阪が2時間半程度だから、感覚的には松本と大阪は同じくらいの距離になる。だからブレイクハートで旅に出ると、信州松本は程よい距離になる。これが甲府ではちょっと近すぎるし、八王子や高雄ではお手軽すぎる。松本の先、長野まで目指せばどうだと言いたくなるが、長野だと心理的、感覚的にちょっと遠すぎるみたいなところか。昭和歌謡をよく知らない人は、狩人、あずさ2号で検索して歌詞を調べてみると理解できるはずだ。
与太話はさておき、松本駅は駅の規模の割に駅弁の種類が豊富だと思う。東北新幹線や北陸新幹線各駅でも、これ程の駅弁ラインナップを持つところは少ないはずだ。その理由は、松本駅の駅弁と中央本線塩尻駅の駅弁が販売されているからだ。東京と横浜の駅弁が並ぶ品川駅みたいなものだろう。駅弁の種類が豊富で選ぶのに困ってしまう。
おまけにもう一つ困るのが、改札口の中に駅弁売り場があり、土産として駅弁を買うためには入場券が必要になるということだ。仙台駅では改札の外に駅弁専門店があるので便利だった。札幌駅、盛岡駅、京都駅、広島駅も改札外で駅弁が買える。東京駅の「祭」は改札内、新宿駅、品川駅も改札内だから、駅によって駅弁販売の対応はさまざまなので文句を言っても仕方がないか。

今回のお目当ては「とりめし」で、弁当の包装紙にあるように塩尻市の弁当屋さんのものだ。鳥のイラストもゆるい感じでほのぼの感があるが、このご時世で税込み700円というのはずいぶんと張り切った値付けだ。ただ、この駅弁は歴史が長いようで、ずっと前から革新的な値付けだったのだろう。ちなみに700円の駅弁として記憶に残っているのは横川の釜飯だが、30年ほど前になる。釜飯はコンビニ弁当の2倍だなという記憶なので、現在の横川の釜飯1000円も似たような価格設定ということになる。
そうなると、このとりめしのお値段はすごいものなのだ。おまけに信州特産野沢菜入りと大きく書かれているが、野沢菜たっぷりが信州人に効き目のある言葉とは思えないので、県外人向け商品なのだろうと推理する。圧倒的な価格戦闘力と、ローカル食材アピールは素晴らしいマーケティングセンスだ。

蓋を開けると、鶏そぼろと鶏肉のW鳥パワーで攻めてくる。野沢菜もたっぷりと言うか、もはやこれは主役級の量で、とり野沢菜メシと言った方が良いくらいだ。紅生姜程度の量であれば、添え物として奥ゆかしい。そして、味違いを楽しむ名脇役になる。ところが、この野沢菜の量は暴力的で、主役を食ってしまうWヒロイン的な強烈さだ。しかもうまい。野沢菜というとすっきりとした浅漬け、時間をおいて発酵した古漬け、どちらも捨て難いうまさだとは思う。が、このとりめしに乗った野沢菜はもう一つの変化系野沢菜で、濃い味付きの野沢菜炒めだった。

結論だが、このとりめしは反則級にうまい素晴らしい駅弁で、できればあずさ10号(例の昭和歌謡のあずさ2号はすでに廃止されている)で新宿駅まで運んできて、新宿駅の駅弁専門店で売って欲しい。今でも、山梨の駅弁は売っているのだから、ぜひ駅弁屋さんとJRの方、ご検討ください。