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イギリス帝国に学ぶ 強さと愚かさ

まず、最初にいうべきことだが、政治と経済を学びたい人には良書だ。できれば世界年表を横に置いて読みたい。イギリス帝国形成から没落までほぼ400年余りの、経済に重きを置いた史観がわかりやすい。ただ、読み終わるまでずいぶん時間がかかってしまった。知的に面白いとは思うのだが、それだけに長時間読み続ける気力が続かない。読むのに脳細胞のパワーを相当に吸い取られる。知的格闘などという言葉を思い浮かべたが、単純に歳をとっただけのことだろう。学生の頃であれば一晩で読み切れたはずだ。ただ、理解度は今の方がはるかに高いとは思う。若い頃は知的レベルが低かったのは間違いない。なので読了できなかった可能性の方が高い。(笑)

帝国と言われれば、多数の異民族を支配下におき軍事、政治的に従える広域領土国家と理解している。古代から中世における幾つかの中華帝国や、ユーラシアのほぼ全土を掌握したモンゴル帝国が典型だろう。古代で言えば当然ながら地中海世界の覇者、ローマ帝国や中央アジアのペルシア、イスラーム諸帝国がある。ただ、近世となれば、勝手に帝国を名乗った西ヨーロッパの王国は除いて、イギリスこそが海洋帝国という名に相応しい。地続きではない世界領土を形成したという点で、世界帝国ということになる。アジアのいくつかの異民族、異宗教国家を従え、南北アメリカ大陸には棄民策を含めた自国民による植民地を作った。ただ、その世界帝国の形成も、何か高邁な思想があったわけではなく、貧乏で強欲なヨーロッパの端の島国が、当時の先進国に負けるのが嫌で、あれこれ悪さをしていたら結果的に世界のあちこちに領地ができてしまった。という結果として成りあがっちゃった感たっぷりの、ごろつき国家だった。このごろつき国家が成功したせいで、世界中が「ごろつきは正義」という怪しい国家観ができたというのが、この本の読後感だ。

だからごろつき国家イギリスの後継たるアメリカ合衆国は、存在開始の時から「ごろつき正義国家」で、この先にイギリスのような没落が始まるまでは、ほぼ5世紀にわたり世界中がごろつき正義を認めたままになる。
そもそも、アメリカ合衆国独立戦争も、きっかけはいろいろあったことだろうが、イギリス本国のヨーロッパ大陸での戦費が足りず、植民地アメリカに対して嗜好品である「茶」に特別税をかけたことが引き金になった。おまけに、アメリカ植民地にはアジアから輸入する「茶」を直接取引させず、ロンドン経由にしてマージンを稼いだというのだ。アメリカ植民地がそれなりに豊かになり、大金持ちだけではなく一般人・小金持ちにも「茶」を飲む習慣が広がったせいらしい。「茶」が贅沢な飲み物であれば植民地人も諦めもついただろうに。古代中国でも塩にかけた税が引き金で反乱や革命が起きたりした。

たかが茶の値上がりがきっかけで、革命というか独立戦争が起きたのだ。茶にかける税金で戦費回収を目論んだイギリス政府は、ずいぶんと当てが外れたことだろう。植民地でしたくもない戦争を起こしてしまい、余計に戦費がかかることになったのだ。バカ政府と言われても仕方がない。
逆に学びといえるのが、それくらいのつまらない理由で「革命」や「戦争」は起きてしまうのだということ。今の日本で革命なんか起きっこないとたかを括っている政府や与党政治家が、この本を読んで学ぶがよいと思う。まあ、歴史に学べるリテラシーの高い政治屋がいるとも思えないが。

「コロナ対策への不満」「ワクチン接種の遅れ」「オリンピック強行開催」の三点セットが揃うと、ボストンのお茶暴動的な騒ぎくらいは起きそうな気がする。

中公新書 「イギリス帝国の歴史」アジアから考える 
知的格闘を望まれる方向け 手強い本です。

https://www.chuko.co.jp/shinsho/2012/06/102167.html

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