食べ物レポート

蕎麦屋で飲む酒が美味いわけ

何年か前に芝増上寺に所用があり、その帰りに大門にある有名な蕎麦屋に立ち寄った。午後の遅くというか夕方になる前の一番暇そうな時間だった。わざわざその時間を狙っていったわけではないのだが、有名店だけありランチ、そして夜は待ち時間が出る人気ぶりなのだ。空いている時間はのんびりできてありがたかった。となると思い出すのが、昔々、会社の先輩に教えられた「蕎麦屋で酒を頼まないのは失礼だ」という、なんとも凄まじいお言葉だった。店内が空いていることもあり、お銚子を一本注文する。蕎麦味噌がついてくるのが嬉しい。蕎麦味噌を一つまみして、その塩味を楽しみつつ日本酒で流し込む。ああ、これこれというささやかな幸せを感じる。

そして、蕎麦屋に入ったのに蕎麦を注文しないという道を突き進む。聞いたところによると、昔々のお江戸には、町ごとに寄席と床屋と銭湯と蕎麦屋があったそうだ。そして蕎麦屋は真っ当な人間が行くような場所ではなく、街の不良がたむろする酒場だったとのことで(本当かどうかは知らないが)、蕎麦は腹一杯食べるものではなく、酒のあてとしてちょとつまむものなのだそうだ。だから、老舗蕎麦屋のもりそばはバーコードみたいな量の少なさが当たり前で当然らしい。
というようなことを思い出しつつ、お江戸の老舗そば屋だと注文できる「天ぬき」天ぷら蕎麦の蕎麦ぬきを頼んだ。海老天の油がそばつゆに溶け出し、この濃いめのつゆをあてに酒を飲む。じわっとふやけてきた天ぷらの衣を摘んで剥がしながら食べる。衣が剥がれたエビを一口齧る。こんな酒飲みの楽しみを発明したのは一体どこのどなた様かは存じませんが、おかけでささやかながら人生の喜びを噛み締めておりますよと・・・。

最近は夜の飲みでコース料理を出す高級蕎麦屋も増えてきたが、個人的には蕎麦屋でそこまではいらないと思ってしまう。蕎麦味噌をあてに熱燗一本、天抜きを頼みつつお銚子を追加。そして、軽く海苔でも炙ってもらって、もりそばでサラリ。みたいな感じが良いと思うのです。ちょっとだけ不良になった気分で。

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