秩父は埼玉県の西の果てにある。元は武蔵国とは独立していた知知夫国だったので、地神様を祀る神社も1000年を超える歴史を持つ由緒ただしきところだ。秩父神社のいわれを見ると、おそらく5世紀から6世紀にかけて秩父国政権は大和朝に靡いたのだろう。その後、独立国知知夫から武蔵国に編入されてしまったとおもわれる。旧国名を見ると大和政権の日本制覇の歴史が見て取れるが、国名を強奪された国はほとんどないので、秩父は相当反抗したのだろう。秩父の他で国名が蒸発というか消滅したのは陸奥国。現在で言えば岩手県あたりに定住していた北方民族系の国は滅ぼされ、おまけに国の名前が「陸の奥」などという凄まじい差別的言い方に書き換えられてしまったのだろうと思っている。初期の古代大和政権に滅ぼされた西国系の国はそれなりに敬意を払われているようだが。東の国は乱暴な扱いだ。
その秩父について調べ物があり、せっかくなのでお得な観光切符でお出かけしてみた。これは秩父市がコロナ対策で補助をしていて、往復運賃も割引だが、950円分のクーポン券もついていて、実質500円くらいで秩父観光ができる優れものだ。

西武鉄道グループの観光路線で走っているライオンズカラーの電車が、飯能から西武秩父まで運行している。この電車には首都圏の私鉄ではなかなかお目にかかれない四人がけのボックスシートが設置されていて、なんとなくほんわかとしたローカル線ムードが漂う。おまけに池袋から特急を使えば飯能駅では進行方向が逆になるスイッチバックという楽しみもある。秩父に行くだけで観光気分になる。仕事で行くはずが、なぜかプチ鉄道旅な気分になる。そこが、ちょっと嬉しい。

最近ではすっかり有名になったムーミンパークに行くには、飯能駅が一番近いと主張したいんだろう。ただ駅から歩いて行ける距離でもないので、この書き方は「間違ってはいないけれど」ちょっとひっかかる。東京メトロ東西線浦安駅をディズニーランド最寄駅という感じに近いか。気持ちはわかるのだがなあ・・・。

そして小一時間もかからずに西武秩父到着。秩父線沿線は、延々と山の中の谷間を潜り抜けていくので、秩父盆地に入った瞬間に視界が広がる。確かに古代であれば、ここは別の国だっただろう。似たような感覚だと、中央高速で笹子トンネルを抜けて山梨に入り甲府盆地を見渡した時に近いか。このホームの向こう側には秩父の象徴武甲山がひかえているのだが。ここからではよく見えない。
ところが西武秩父駅の改札を抜けると目の前に武甲山が聳え立っているので、この駅の設計者の気持ちはよくわかる。どうだ参ったか、この景色。と言いたかったのだろうなあ。