書評・映像評

横浜駅SF  日常の非日常化

表紙 by amazon

横浜駅sf

ロードムービーという映画のジャンルがある。要は旅をする主人公を描く物語で、少年が旅で成長する、青年が旅で世のほろ苦さを学ぶ的なストーリーと理解している。主人公の性別は問わないが、男の子が登場することが多いと記憶している。

SFでも旅を背景にした物語は多い。「ポストマン」が典型的な名作だ。あえて言えば戦争SFの名作と言われる「宇宙の戦士」も、兵隊があちこちに出張っていく物語といえば、そう言えないこともない。日本SFで言えば筒井康隆の名作があるが、なんと言っても旅作家椎名誠の「アド・バード」が、旅SFでは屈指の名作だと思っていた。

この本も読んでいるうちに、なんだか「アド・バード」に似ているなあと思っていたら、後書きで著者が「アド・バード」が好きで、その影響が・・・みたいなことを書いていたので納得した。

作品世界は横浜駅が全国に膨張していく時代の話で、そこに聴き慣れた単語「スイカ」「自動改札」「青春18キップ」「JR」などが頻出するのだが、自分が理解記憶している単語と作中単語は似ているようで異なっている。このズレ感が楽しい。また様々な世界事象を説明する造語、例えば「構造遺伝界」や「JR統合知性体」、「N700系電気ポンプ銃」などドキドキものの単語が並ぶ。正統SFではこの怪しい造語とガジェットが必須備品なのだが、これが実に楽しく散りばめられている。

主人公が、自分探しの旅に出て、意図せずに巻き込まれた事件が、既存社会を崩壊させる引き金を引くことになったという話なのだが、世界を救うような使命感を最後までもたないまま怪しい世界を彷徨うという、まさに王道的ロードムービーで完成度は高い。悪役も出てこない、敵役も出てこない、淡々とした話の流れが逆に心地よい。

サイバーパンクと言われた諸作もガジェットと造語の嵐だったが、それよりもはるかに分かりやすい。ただ、できればもうすこしこの横浜駅に占拠された日本を覗いてみたいという欲求に駆られる。続編ではその辺りが書かれているようなので、2冊合わせて異世界を堪能することにしよう。

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